human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

2020-01-01から1年間の記事一覧

<AR-F03> 期待が生む恐怖

社会の皮相が個性に植え付ける、悲愴なまでの皮肉。 鋼鉄の意志は赤錆に蝕まれ、孤独なアイロニと化す。 苦渋を嘗め尽した過去は、あらゆる未来に恐怖する。 再来の予感を打ち消すことに全力を捧げる徒となる。 「どうして、所長はそんなことを僕に話してい…

15日目(後半):風にあおられ海で歯みがき 2017.3.15

前半はこちら。 cheechoff.hatenadiary.jp × × × (3)風・・・今日は一日中風が強く、ほとんど向かい風。ゲタ修理中もひっきりなしに吹いてるし、橋では飛ばされそうになるし[室戸]岬[の周辺]では前に進めないくらいでさすがに疲れた。 風は歩き遍路の大敵で…

マトリックスと目鱗

本記事はメモです。 × × ×https://twitter.com/three_turnerたしか去年からツイッターで細々と鎖書店の選書メモを発信し続けていて、 けれどフォローを全くしなかったので発信力という意味では弱いなとふと思い、 フォローを始めることにしました。ただ本ア…

15日目(前半):食べ放題の刹那的幸福、応急鼻緒の刹那的命脈 2017.3.15

この日は記述が多いので、小分けにコメントしていきます。 ちなみに、の行に書いてあるのは、その日にお参りしたお寺、泊まった宿、歩いた距離です。 距離は遍路地図から算出しています。 27神峯寺→宿(ビジネスホテル弁長) 23.5km(1)居酒屋「白牡丹」にて…

鎖書店のABOUTページを更新しました

ふと思いついて、鎖書店のコンセプトを書いたページ内容を改訂しました。3tana.stores.jpいままでは販売サイトを立ち上げる時に勢いで書いた内容オンリーのごつごつした文章だったんですが、久しぶりに最初から読もうとすると、自分で書いた文章ながら読みづ…

14日目:高知市街で一本歯を探すが見つからず 2017.3.14

ロルバーンのリングノートに書いた14日目の日記は以下だけです。 というのも、この日は歩き以外の移動日で、その移動の際に日記を携帯するのを忘れたからです。 (メイン荷物の登山ザックを奈半利駅のロッカーに入れたのだったかな…?) 高知市からの電車の…

甲野善紀氏の simple complexity についての私見

複雑性(コンプレクシティー) 確実な計算のための情報が欠けていること。複雑性の下では処方箋を書いても呪文を唱えても効き目がない。ただし、「それ自体として」複雑な対象があるわけではないのであって、ある構造がどれだけ複雑で「ある」かはそれを記述…

「いいんだよ」

「パパ」 「なんだい?」 「パパって、ほんとに、パパ?」 「たぶん」 「ぜったい、っていって!」 「なんで?」 「こわいから。パパ」 「なんだい?」 「ぼくって、ほんとに、ぼく?」 「そうだよ」 「えええっ! なんで? パパは、パパじゃないかもしれな…

不死身(富士見)の伝統芸能「純粋暗箱形式主義」

それ以来、人々はポスト・イストワール的に硬直した世界に動きをもたらす「情念(パトス)の型」を求めてきた。失われた「生の緊張」を、改めて純形式的に、生活世界に注ぎ込もうというのである。これが、コジェーヴが分析した魅惑的現象、すなわち純形式的…

<AR-F02> ある表情

表情に自然法則を適用することはできない。 物体ではある人の顔の、それは意味だから。 表情のない顔と向き合うことを人は恐れる。 しかし稀に、人を内省に誘う無表情がある。 彼の顔から笑いが消えている。自分の回りの大地に気づいて目を凝らしているから…

現実へのリンクとしての「自己包摂性」

自己包摂性(アウトローギッシュ) 自己包摂的な概念とは、その概念自体を定義のなかで用いることによってのみ定義できるような概念である。そうした概念は、その概念自体に適用することが可能であり、必要でもある(そうしても無意味にはならない)。たとえ…

現実のふり、の現実、のふり、の…

だいたい、パパがお話をしてくれるのは、寝る前だ。パパはこんな具合に始める。 「さて、もう寝る時間だ。その前に、ひとつ、お話をしよう。ききたいかい?」パパはいった。 パパは、ぼくにお話してくれる前に、かならず「ききたいかい?」という。「どうし…

三島由紀夫と上野千鶴子

連想でオフィスの書庫の本を繋げてセット販売する、「鎖書店」というネット古書店を運営しています。 書庫には多様なテーマの本が並んでいて、作成するセットの分野はいろいろです。 が、やはり連想という自分の無意識に頼ると、僕自身の興味の度合いがセッ…

13日目:遍路宿「蔵空間」にて、行程先取りのこと 2017.3.13

ふと思いついて、「一本歯遍路」回想記の続きです。日記を見返すたびに当時の記憶が薄れていることを感じるのですが、 記憶は「なくなった」のではなく「底に沈んでいる」だけなのだと、 毎日新聞の人生相談欄にあった高橋源一郎氏の言葉で気付いたので。引…

鶴見俊輔の「菌糸眼的思考」

自分が生きてゆくにつれて視野がひらける。そういう遠近法を捨てることはできない。しかし、そういうふうにしてひらけてくる景色には、自分にとって見えない部分がふくまれる。この自分にとって見えない部分を見るというのは、できないことだが、見えないも…

<AR-F01> 個人主義の萌芽

仕事を依頼する人と仕事を受ける人とが、 互いに向き合う場合だけでなく、 両者が同じある方角を見据える場合にも、 その仕事が成立する場合がある。 「そうですね、確かに、僕は僕の顧客のために、建てうる中でももっとも快適でもっとも論理的でもっとも美…

責任の孤独

「どうしたんです?」院長はいった。 「いや」わたしはうろたえていった。 「なにか話したいことがあると思ったんですが。よく考えたら、話すことは別にありませんでした」 それから、また、わたしは黙った。院長もだ。いやはや。たまりかねて、わたしはいっ…

「テキトーと適当のあいだ」の民主主義

もし、キリスト教やイスラム教、プラトニズムやマルクス主義やハイデガー思想の中に何か非民主的なものがあるとすれば、それは〈人間〉や〈理性〉や〈歴史〉の本性に関する何らかの特定の学説にあるのではなくて、これらの宗教や哲学をあまりにクソ真面目に…

Goodbye, and Goodhello

ねえ、クリストファー・ロビン。もういってもいいよね、「疲れた」って。ぼく、ほんとうに疲れたんだ。 世界がこんな風になったのは、向こうの世界で(どんな世界か知らないけれど)、とんでもないことが起こったからだ、というやつがいた。だから、ぼくたち…

運転手と王さま

× × × 言葉には意味がある。 人は意味を頼って言葉を発する。 時には言葉にない意味を頼って。 意味は根に養分を与える、土のあるところでは。 木は枝を伸ばし葉を拡げる。 葉の重なりは光を遮り陰を生む。 陰に形はなく、形なきところに陰はない。 陰に宿る…

尽きぬ流れの「初源」の風景

『水源 The Fountainhead』(アイン・ランド)を読了しました。 かなりの大著で、平日に一日1~2時間読み進めて、半年かかりました。あとがきに書いてあったことですが、 著者は20世紀初期にロシアで生まれたユダヤ系の人で、本名はアリッサ・ローゼンバウム…

「システム」または「壁」、および「個」または「卵」にかんするリオタールの発言(1988)

それこそが《敵》なのだと私は思いました。《敵》は資本主義ではなく、私が《大きなモナド》と呼んだ、誰もコントロールできない発展のプロセスなのです。人間は自分たちがその発展の作り手だと思っていますが、実は人間は作り手ではなく、ただ単にその担い…

香辛寮の人々 2-8 (承前)

香辛寮の人々 2-5 「シンゾー・エクリチュール」 - human in book bouquet 香辛寮の人々 2-6 (承前) - human in book bouquet 香辛寮の人々 2-7 他責主義の底に潜むもの(承前) - human in book bouquet * * * 「僕はここ最近ずっと、システムについて考…

香辛寮の人々 2-7 他責主義の底に潜むもの(承前)

cheechoff.hatenadiary.jp cheechoff.hatenadiary.jp * * * ヒハツ・コーヒーが入ったカップ2つを手にして、フェンネルがテーブルに戻ってくる。 「この胡椒自体に燻製のような香りがあってね、ドリップ前に粉に足すとコーヒーに深みが増すんだ」 「ふむ。…

香辛寮の人々 2-6 (承前)

cheechoff.hatenadiary.jp * * * カップのコーヒーは空になっていたが、二人とも特に気にするふうでもない。 「君が居心地が悪いと感じたのは、会話はいちおう論理的に整合性がとれているというだけで、言葉のやりとり以外の面でコミュニケーションが成立し…

香辛寮の人々 2-5 「シンゾー・エクリチュール」

フェンネルは共同の居間で新聞を読んでいる。両肘をテーブルにつけ、片手にコーヒー。居間には彼しかいない。 業だな、と感じる。昨今のウィルス報道のことだ。 報道はニュースをなんでもかんでも伝えるが、その姿勢はマスコミに必然の他力本願だ。その言葉…

関心の模造・量産がもたらす世界観

『世界はなぜ存在しないのか』(マルクス・ガブリエル)という本に、 事実には二つの側面があるという論理があります。実際になにかが現実に存在していること、ふつう事実と呼ばれるものとしてのこれ、 だけではなく、 それを認識する主体(の意識・存在)、…

毎日新聞(2/2 日)、アラブ社会に想像を巡らせる

「ストーリー」という特集記事(たぶん外国の特派員記者が担当するシリーズ)では、アラブ社会のグラスルーツの「風刺の精神」について書かれていました。記事の中では、アラビア語でジョークや小話を意味する「ヌクタ」がいくつか紹介されています。 エジプ…

毎日新聞(1/26 日)と「宇宙空間の豚さんたち」

面白い哲学書においては、論題が抽象的でも、その議論が日常生活と有機的にリンクされています。僕の思う「有機的に」というのは、生活のこまごまとしたことに対する認識を変えたり、些事が新たな意味を獲得したり、あるいは哲学(的思考)そのものが生活の…

脳化社会における庶民の「抽象的土着」について

あるいは本題の5倍以上は長いまえおき 理解よりも前、それを目指す考察よりも前の、興味の段階にある状態が、 なにごとかを指し示すことがある。「普遍に至る個性」は、その個性が社会にもまれて生活している限りにおいて、 いわゆる個性的な人物でなくとも…