human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

責任の孤独

「どうしたんです?」院長はいった。 「いや」わたしはうろたえていった。 「なにか話したいことがあると思ったんですが。よく考えたら、話すことは別にありませんでした」 それから、また、わたしは黙った。院長もだ。いやはや。たまりかねて、わたしはいっ…

「テキトーと適当のあいだ」の民主主義

もし、キリスト教やイスラム教、プラトニズムやマルクス主義やハイデガー思想の中に何か非民主的なものがあるとすれば、それは〈人間〉や〈理性〉や〈歴史〉の本性に関する何らかの特定の学説にあるのではなくて、これらの宗教や哲学をあまりにクソ真面目に…

Goodbye, and Goodhello

ねえ、クリストファー・ロビン。もういってもいいよね、「疲れた」って。ぼく、ほんとうに疲れたんだ。 世界がこんな風になったのは、向こうの世界で(どんな世界か知らないけれど)、とんでもないことが起こったからだ、というやつがいた。だから、ぼくたち…

運転手と王さま

× × × 言葉には意味がある。 人は意味を頼って言葉を発する。 時には言葉にない意味を頼って。 意味は根に養分を与える、土のあるところでは。 木は枝を伸ばし葉を拡げる。 葉の重なりは光を遮り陰を生む。 陰に形はなく、形なきところに陰はない。 陰に宿る…

尽きぬ流れの「初源」の風景

『水源 The Fountainhead』(アイン・ランド)を読了しました。 かなりの大著で、平日に一日1~2時間読み進めて、半年かかりました。あとがきに書いてあったことですが、 著者は20世紀初期にロシアで生まれたユダヤ系の人で、本名はアリッサ・ローゼンバウム…

「システム」または「壁」、および「個」または「卵」にかんするリオタールの発言(1988)

それこそが《敵》なのだと私は思いました。《敵》は資本主義ではなく、私が《大きなモナド》と呼んだ、誰もコントロールできない発展のプロセスなのです。人間は自分たちがその発展の作り手だと思っていますが、実は人間は作り手ではなく、ただ単にその担い…

香辛寮の人々 2-8 (承前)

香辛寮の人々 2-5 「シンゾー・エクリチュール」 - human in book bouquet 香辛寮の人々 2-6 (承前) - human in book bouquet 香辛寮の人々 2-7 他責主義の底に潜むもの(承前) - human in book bouquet * * * 「僕はここ最近ずっと、システムについて考…

香辛寮の人々 2-7 他責主義の底に潜むもの(承前)

cheechoff.hatenadiary.jp cheechoff.hatenadiary.jp * * * ヒハツ・コーヒーが入ったカップ2つを手にして、フェンネルがテーブルに戻ってくる。 「この胡椒自体に燻製のような香りがあってね、ドリップ前に粉に足すとコーヒーに深みが増すんだ」 「ふむ。…

香辛寮の人々 2-6 (承前)

cheechoff.hatenadiary.jp * * * カップのコーヒーは空になっていたが、二人とも特に気にするふうでもない。 「君が居心地が悪いと感じたのは、会話はいちおう論理的に整合性がとれているというだけで、言葉のやりとり以外の面でコミュニケーションが成立し…

香辛寮の人々 2-5 「シンゾー・エクリチュール」

フェンネルは共同の居間で新聞を読んでいる。両肘をテーブルにつけ、片手にコーヒー。居間には彼しかいない。 業だな、と感じる。昨今のウィルス報道のことだ。 報道はニュースをなんでもかんでも伝えるが、その姿勢はマスコミに必然の他力本願だ。その言葉…

関心の模造・量産がもたらす世界観

『世界はなぜ存在しないのか』(マルクス・ガブリエル)という本に、 事実には二つの側面があるという論理があります。実際になにかが現実に存在していること、ふつう事実と呼ばれるものとしてのこれ、 だけではなく、 それを認識する主体(の意識・存在)、…

毎日新聞(2/2 日)、アラブ社会に想像を巡らせる

「ストーリー」という特集記事(たぶん外国の特派員記者が担当するシリーズ)では、アラブ社会のグラスルーツの「風刺の精神」について書かれていました。記事の中では、アラビア語でジョークや小話を意味する「ヌクタ」がいくつか紹介されています。 エジプ…

毎日新聞(1/26 日)と「宇宙空間の豚さんたち」

面白い哲学書においては、論題が抽象的でも、その議論が日常生活と有機的にリンクされています。僕の思う「有機的に」というのは、生活のこまごまとしたことに対する認識を変えたり、些事が新たな意味を獲得したり、あるいは哲学(的思考)そのものが生活の…

脳化社会における庶民の「抽象的土着」について

あるいは本題の5倍以上は長いまえおき 理解よりも前、それを目指す考察よりも前の、興味の段階にある状態が、 なにごとかを指し示すことがある。「普遍に至る個性」は、その個性が社会にもまれて生活している限りにおいて、 いわゆる個性的な人物でなくとも…

毎日新聞(1/19 日)

今週も、日曜版を読んで考えたこと。 1. 俳句を一つ取り上げて、何がしかのコメントを述べる小欄。 その小欄において評者は、交番前につくられた雪だるまを描写した一句に対して誰がその雪だるまを作ったのか、と想像を膨らませる。 近所の子どもだろうか、…

毎日新聞(1/12 日)

なにか、習慣的なことがらに関連して書こうと思った時に、それを書くこと自体が習慣になるかどうかを、書く前から考えてしまいます。 その「先読み思考」が、習慣化できないのなら書く意味はない、という判断材料になってしまうのは、よくない。やってみたい…

ゆくとしくるとし '19→'20 2

去年の、つまり先の年末年始の「ゆくくる」を読み返していました。 よくもこれだけの量を書けるなあ、というくらいの長文でした。 1から5まであります。cheechoff.hatenadiary.jpはっきりとは書いていませんが、その時の自分の状況が文章の雰囲気としてよく…

まったりと年越し

今年も紅白見ました。AKB系列の、なんたら坂か忘れましたが「不協和音」という曲が、曲はいいなと思ったんですが、君らそんな大勢で歌う曲ではないだろう、と思いました。日本語には建前と本音という裏表の性質があって、それぞれが実質を備えて補完し合うこ…

ゆくとしくるとし '19→'20 1

年の瀬です。今年は、いつもより寒くない気がします。 だからなのか、年末という感じがあまりしません。毎年、年末になると頭の中に流す曲がまた同じように流れて、それで年末だなと感じる。「節目」という感覚が、年々薄れているかもしれません。 年齢のせ…

Black Enigma

──あまり人の登りを見たりしませんよね?「いくつか理由はあります。 まずは、あまり参考にならないから。僕がそうなんですけど、能力バランス的にフィジカルが弱くて、でも足でグイグイ登るタイプの人はわりと少ないのです。足遣いが上手い人は上半身も強い…

月と眼球

ビルの隙間から月が見える。 見上げながら一緒に歩く。 自分たちだけが動いているように見える。 自分たちだけが止まっているようにも、見える。 同じことだと思う。 月に時間があるか? 月から時間が生まれるか? 月は定点だと捉える。 自分は月に観測され…

香辛寮の人々 2-4 「アニス嬢によろしく」

階段を降りる足音が聞こえたあと、ディルウィードが居間に姿を見せる。 彼はソファでコーヒーを飲むフェンネルに目を留め、笑顔になる。「こんにちは、フェンネルさん。いい香りがすると思ったら」 「やあ。君も飲むかい? さっき淹れたところだよ」 「あり…

自覚を研ぎ澄ませた無垢(はまた今度)、電車スマホの異常空間における共同幻想について

読みながら、この人なんで「普通」ってことにこんなにこだわってるんだろう、ってそばにいたノボちゃんに呟いたら、ノボちゃんは、「こいつの言う『普通』ってのは、人が人の目を意識しないでとる行動、だから覗き見して初めて見られる他人のナチュラルな行…

香辛寮の人々 2-3 明けない夜に、空けないウィスキー

ティーチャーズを飲むのは今日が初めてだ。 スーパーに置いてあるものでは、シーヴァス・リーガルとジャック・ダニエルが好きだという記憶がある。 ただ、初めてウィスキーを手に取った大学生の頃に飲んだ安酒も、味は覚えている。 今好んで飲む気にはならな…

ブックアソシエータのつぶやき 1

耳年増というのがあって。 経験はなくとも話には聞いていて、なんだか知った風であるという。 本読みにも似た傾向があり。 読んだ話と実際にあったこととがごっちゃになるともうダメで。何がダメなのか。古本屋を始めたのが、いや開店は最近ですが準備は半年…

マジックミラーの「閉鎖系多重反射」の怪

先の記事を書いていて、最後に読み返す時に、別の進路へ派生する思いつきがもう一つあったことを思い出しました。 cheechoff.hatenadiary.jp 以下の引用は再掲です。 「お前は誰だ」と訊かれて、優等生の言葉は風紀係の教師に向かい、「私は私だ、あなたの思…

ラディカルの未来形、マジックミラー・シティ、意識活動の質的変化

風紀係の教師の前に立たされた非行少女は、ただ一つのことを知っている。それは、自分の言葉がけっして相手に受けとめられることはないということ、もし受けとめられることがあれば、それは、相手が虚偽であるか、自分が虚偽であるか、そのどちらかの場合だ…

自覚の祝祭

いつまでも読み継がれる、古びない本があります。でも、本とは本来、そのような意図でつくられたものです。内容が古くなって、現代では読む「価値」がない本。 この「価値」は現代が下した判断です。だとすれば、それを疑うことは、古びた本を復活させること…

「鎖書店」説明ページのための文章

このブログにはほとんど書いてこなかったのですが、現在「新しいコンセプトのネット古書店」の開業準備中で、半年以上前からコツコツと進めていました。今日はその準備の大詰めで、販売HPの説明書き(要するに「売り文句」)を書いていました。 「鎖書店」と…

子どもに「かまう」人の視線と秩序

「でも子供を可愛がるというのとは、ちょっと違うんです。なんと言えばいいんだろう? 子供にかまう、という方が近いかな」 かまう? 「うちにも子供がいるんですが、犬伏はとにかくかまうんです。子供が好きなことはたしかなんだけど、可愛がるというのとは…