human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

香辛寮の人々 2-6 (承前)

cheechoff.hatenadiary.jp * * * カップのコーヒーは空になっていたが、二人とも特に気にするふうでもない。 「君が居心地が悪いと感じたのは、会話はいちおう論理的に整合性がとれているというだけで、言葉のやりとり以外の面でコミュニケーションが成立し…

香辛寮の人々 2-5 「シンゾー・エクリチュール」

フェンネルは共同の居間で新聞を読んでいる。両肘をテーブルにつけ、片手にコーヒー。居間には彼しかいない。 業だな、と感じる。昨今のウィルス報道のことだ。 報道はニュースをなんでもかんでも伝えるが、その姿勢はマスコミに必然の他力本願だ。その言葉…

関心の模造・量産がもたらす世界観

『世界はなぜ存在しないのか』(マルクス・ガブリエル)という本に、 事実には二つの側面があるという論理があります。実際になにかが現実に存在していること、ふつう事実と呼ばれるものとしてのこれ、 だけではなく、 それを認識する主体(の意識・存在)、…

毎日新聞(2/2 日)、アラブ社会に想像を巡らせる

「ストーリー」という特集記事(たぶん外国の特派員記者が担当するシリーズ)では、アラブ社会のグラスルーツの「風刺の精神」について書かれていました。記事の中では、アラビア語でジョークや小話を意味する「ヌクタ」がいくつか紹介されています。 エジプ…

毎日新聞(1/26 日)と「宇宙空間の豚さんたち」

面白い哲学書においては、論題が抽象的でも、その議論が日常生活と有機的にリンクされています。僕の思う「有機的に」というのは、生活のこまごまとしたことに対する認識を変えたり、些事が新たな意味を獲得したり、あるいは哲学(的思考)そのものが生活の…

脳化社会における庶民の「抽象的土着」について

あるいは本題の5倍以上は長いまえおき 理解よりも前、それを目指す考察よりも前の、興味の段階にある状態が、 なにごとかを指し示すことがある。「普遍に至る個性」は、その個性が社会にもまれて生活している限りにおいて、 いわゆる個性的な人物でなくとも…

毎日新聞(1/19 日)

今週も、日曜版を読んで考えたこと。 1. 俳句を一つ取り上げて、何がしかのコメントを述べる小欄。 その小欄において評者は、交番前につくられた雪だるまを描写した一句に対して誰がその雪だるまを作ったのか、と想像を膨らませる。 近所の子どもだろうか、…

毎日新聞(1/12 日)

なにか、習慣的なことがらに関連して書こうと思った時に、それを書くこと自体が習慣になるかどうかを、書く前から考えてしまいます。 その「先読み思考」が、習慣化できないのなら書く意味はない、という判断材料になってしまうのは、よくない。やってみたい…

ゆくとしくるとし '19→'20 2

去年の、つまり先の年末年始の「ゆくくる」を読み返していました。 よくもこれだけの量を書けるなあ、というくらいの長文でした。 1から5まであります。cheechoff.hatenadiary.jpはっきりとは書いていませんが、その時の自分の状況が文章の雰囲気としてよく…

まったりと年越し

今年も紅白見ました。AKB系列の、なんたら坂か忘れましたが「不協和音」という曲が、曲はいいなと思ったんですが、君らそんな大勢で歌う曲ではないだろう、と思いました。日本語には建前と本音という裏表の性質があって、それぞれが実質を備えて補完し合うこ…

ゆくとしくるとし '19→'20 1

年の瀬です。今年は、いつもより寒くない気がします。 だからなのか、年末という感じがあまりしません。毎年、年末になると頭の中に流す曲がまた同じように流れて、それで年末だなと感じる。「節目」という感覚が、年々薄れているかもしれません。 年齢のせ…

Black Enigma

──あまり人の登りを見たりしませんよね?「いくつか理由はあります。 まずは、あまり参考にならないから。僕がそうなんですけど、能力バランス的にフィジカルが弱くて、でも足でグイグイ登るタイプの人はわりと少ないのです。足遣いが上手い人は上半身も強い…

月と眼球

ビルの隙間から月が見える。 見上げながら一緒に歩く。 自分たちだけが動いているように見える。 自分たちだけが止まっているようにも、見える。 同じことだと思う。 月に時間があるか? 月から時間が生まれるか? 月は定点だと捉える。 自分は月に観測され…

香辛寮の人々 2-4 「アニス嬢によろしく」

階段を降りる足音が聞こえたあと、ディルウィードが居間に姿を見せる。 彼はソファでコーヒーを飲むフェンネルに目を留め、笑顔になる。「こんにちは、フェンネルさん。いい香りがすると思ったら」 「やあ。君も飲むかい? さっき淹れたところだよ」 「あり…

自覚を研ぎ澄ませた無垢(はまた今度)、電車スマホの異常空間における共同幻想について

読みながら、この人なんで「普通」ってことにこんなにこだわってるんだろう、ってそばにいたノボちゃんに呟いたら、ノボちゃんは、「こいつの言う『普通』ってのは、人が人の目を意識しないでとる行動、だから覗き見して初めて見られる他人のナチュラルな行…

香辛寮の人々 2-3 明けない夜に、空けないウィスキー

ティーチャーズを飲むのは今日が初めてだ。 スーパーに置いてあるものでは、シーヴァス・リーガルとジャック・ダニエルが好きだという記憶がある。 ただ、初めてウィスキーを手に取った大学生の頃に飲んだ安酒も、味は覚えている。 今好んで飲む気にはならな…

ブックアソシエータのつぶやき 1

耳年増というのがあって。 経験はなくとも話には聞いていて、なんだか知った風であるという。 本読みにも似た傾向があり。 読んだ話と実際にあったこととがごっちゃになるともうダメで。何がダメなのか。古本屋を始めたのが、いや開店は最近ですが準備は半年…

マジックミラーの「閉鎖系多重反射」の怪

先の記事を書いていて、最後に読み返す時に、別の進路へ派生する思いつきがもう一つあったことを思い出しました。 cheechoff.hatenadiary.jp 以下の引用は再掲です。 「お前は誰だ」と訊かれて、優等生の言葉は風紀係の教師に向かい、「私は私だ、あなたの思…

ラディカルの未来形、マジックミラー・シティ、意識活動の質的変化

風紀係の教師の前に立たされた非行少女は、ただ一つのことを知っている。それは、自分の言葉がけっして相手に受けとめられることはないということ、もし受けとめられることがあれば、それは、相手が虚偽であるか、自分が虚偽であるか、そのどちらかの場合だ…

自覚の祝祭

いつまでも読み継がれる、古びない本があります。でも、本とは本来、そのような意図でつくられたものです。内容が古くなって、現代では読む「価値」がない本。 この「価値」は現代が下した判断です。だとすれば、それを疑うことは、古びた本を復活させること…

「鎖書店」説明ページのための文章

このブログにはほとんど書いてこなかったのですが、現在「新しいコンセプトのネット古書店」の開業準備中で、半年以上前からコツコツと進めていました。今日はその準備の大詰めで、販売HPの説明書き(要するに「売り文句」)を書いていました。 「鎖書店」と…

子どもに「かまう」人の視線と秩序

「でも子供を可愛がるというのとは、ちょっと違うんです。なんと言えばいいんだろう? 子供にかまう、という方が近いかな」 かまう? 「うちにも子供がいるんですが、犬伏はとにかくかまうんです。子供が好きなことはたしかなんだけど、可愛がるというのとは…

Can one speak about unspeakable? (4)

言葉は「ないものをあらしめる」ために生まれた。 その場にあるもの、そばにいる人を名指す必要は、本来はない。 身振りで伝わるからだ。時間的に、または空間的に、「ある」が「ない」に変わったもの。 あるはずがなくなったもの、あってほしいがないもの。…

Can one speak about unspeakable? (3)

→(1) →(2) × × ×「『沈黙に至る雄弁』というものを考えてみたのです」 「ふむ。つい最近どこかで聞いたような表現じゃの」 「……」 「……」「言うことがなくなって黙り込む、ということかな? もうおしまい?」 「いえ、ちょっと一人でデジャビュに浸っており…

Can one speak about unspeakable? (2)

→(1) × × ×「『沈黙に至る雄弁』というものを考えてみたのです」 「ほう。どこかで聞いたことのある表現だな。それは具体的には、どういうものかね?」「前に話していたように、言葉がそこには存在していないはずの沈黙という状態を言葉で表現したい、いや、…

お盆に姪甥と遊ぶ

先週末、タイに住んでいる兄一家が実家に帰ってきました。 それに合わせて僕も帰省して、午後いっぱいを一緒に過ごしました。9歳になった姪と、3つ下の甥と会うのは2年ぶりでした。 おてんばで多動症的だった姪(「あーちゃん」)は少し落ち着いた反面、「い…

「遺産過多」の時代、消費対象としての時間、キュレーションと自販機

(…)しかし、すでにシャトーブリアンがこの加速化の経験を旧秩序の廃墟の抗いようのない徴と見ていたし、[ロバート・]ムージルもまた「加速化主義(accelerisme)」という表現を作っている。アレヴィはその試論をミシュレの引用から始め、ヒロシマのその後…

自己の定点観測、「りんとした現前」、幅のある瞬間

『「歴史」の体制』(F・アルトーグ)を読了し、二度目の再読に入っています。 8割以上が理解できず、なんとか意味が汲み取れた2割の中で重要そうに思えて印をつけた部分の前後だけを読み返すという再読。 やはりすぐには終わらない。歴史の体制 現在主義…

「巣箱型図書館」をつくろう

オフィスに書庫を作ろうと思ったのは半年以上前で、相変わらず進捗は遅々としていますが、いつだったか、書庫の設計中に紀伊国屋で本を3冊買いました。設計用にと構造力学の入門書(結局読んでませんが…)と、図書館関係の本2冊。後者のうち読んでなかった…

のみのいちへいく

一冊の本を長く続けて読めないことを、能力の欠如(減退)だと思っていましたが、あるいはそれは、別の能力が発揮されたことの結果なのかもしれない。 × × ×電車の中である女性の顔に目が留まり、高校時代の友人に似ていると思ったあと、大学時代のサークル…