human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

 -高橋源一郎

「いいんだよ」

「パパ」 「なんだい?」 「パパって、ほんとに、パパ?」 「たぶん」 「ぜったい、っていって!」 「なんで?」 「こわいから。パパ」 「なんだい?」 「ぼくって、ほんとに、ぼく?」 「そうだよ」 「えええっ! なんで? パパは、パパじゃないかもしれな…

現実のふり、の現実、のふり、の…

だいたい、パパがお話をしてくれるのは、寝る前だ。パパはこんな具合に始める。 「さて、もう寝る時間だ。その前に、ひとつ、お話をしよう。ききたいかい?」パパはいった。 パパは、ぼくにお話してくれる前に、かならず「ききたいかい?」という。「どうし…

責任の孤独

「どうしたんです?」院長はいった。 「いや」わたしはうろたえていった。 「なにか話したいことがあると思ったんですが。よく考えたら、話すことは別にありませんでした」 それから、また、わたしは黙った。院長もだ。いやはや。たまりかねて、わたしはいっ…

Goodbye, and Goodhello

ねえ、クリストファー・ロビン。もういってもいいよね、「疲れた」って。ぼく、ほんとうに疲れたんだ。 世界がこんな風になったのは、向こうの世界で(どんな世界か知らないけれど)、とんでもないことが起こったからだ、というやつがいた。だから、ぼくたち…

死者の視線を感じる(『成長から成熟へ』を読んで・後半)

前半から続きます。 たとえば、『宮本常一が撮った昭和の情景』(上下巻/毎日新聞社)という写真集を見てください。(…)この写真集を見ていると、あきらかにいまのぼくたちとは目の光が違うことに気づくはずです。 それが、プロの写真家ではなく、あくまで…

無垢について(2)

無垢という言葉から、いつも連想する人がいます。 『いつかソウル・トレインに乗る日まで』(高橋源一郎)の登場人物です。 自分の記憶に残るまま、書いてみます。 読んだのは、記録によると4年前のことです。+*+*+*ある場面で、主人公は隣に寝ている…