human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

 -森博嗣

「百季夜行」、あるいは人形と踊る人形師

けれども、多くの問題は、そもそもその観測点の不同定を棚上げにして扱われている。ニューラルの変幻さを、一瞬だけネガフィルムのように反転固定した仮定の基に、ただ「こうでなければならない」という道筋を引く。それがロゴスだ。 したがって、疑うべき主…

「前兆」の保存とその変容

もっとも興味深い帰結のひとつは、十七世紀の信仰運動である。そこでは、救済の成就のための試みが私事化されたのであった。(…) [こんにち]すくなくとも、この信仰運動の二つの効果は心のうちに保たれているに相違ない。その第一は、自分自身の救済に必要な…

「権力を取らずに世界を変える」個人編

下記引用の太字と傍線の意味は、文脈上の種類の違いです。 何十年もまえから、科学的研究は、もはや疑いのない正説という指針のもとに行われることはなくなった──とりわけ、認識理論および科学理論においてそうであった。一般に受け入れられた方策は、「プラ…

司書ブログ更新

一年ぶりですが、個人事業HPのブログを更新したのでリンクしておきます。選書したセットが自分の仕事の価値観に関わるものだったので、 これを機会にと考えてみました。この089は相当に内容の濃い鎖書なので、引き出せるものはもっとあるはずです。もとい、…

「不気味の山」とリアリティの解像度

電子の仮想空間が誕生する以前から、人間は夢を見ていた。夢と現実を取り違えないでいられたのは、夢が現実に比べて圧倒的にデータ量が少なかったからだ。多くのメモリィを必要としない、解像度の低いものだった。合理的な秩序も、緻密なディテールも、そし…

「いいんだよ」

「パパ」 「なんだい?」 「パパって、ほんとに、パパ?」 「たぶん」 「ぜったい、っていって!」 「なんで?」 「こわいから。パパ」 「なんだい?」 「ぼくって、ほんとに、ぼく?」 「そうだよ」 「えええっ! なんで? パパは、パパじゃないかもしれな…

保坂-森リンク、予感が賭けるもの

『血か、死か、無か?』(森博嗣)を図書館へ返却する直前に、剥がしてなかった付箋箇所を読み返すと、つい今しがた読んでいた『小説の自由』(保坂和志)へと連想が繋がる。シンクロニシティは客観と意味の結合だとか、図書館で借りる本は自分で購入する本…

鏡としての人工知能(森博嗣『血か、死か、無か?』を読んで)

『血か、死か、無か?』(森博嗣)を読了しました。 Wシリーズ第8作。血か、死か、無か? Is It Blood, Death or Null? (講談社タイガ)作者: 森博嗣出版社/メーカー: 講談社発売日: 2018/02/22メディア: 文庫この商品を含むブログ (4件) を見るここへ来て、…

トラックのダッシュボードにイリイチがある世界(1)

『街場の現代思想』(内田樹)を、学生の頃に好んで読み返していました。 こういう仕事がしたい、という明確な像を持っていなかったし、そもそも仕事に対する強い意志もなかった時期、大学院生の頃でした。こんな極端なニュアンスではなかったと思いますが「…

「砂漠だけが生きている」、生と死のフラクタル

彼女は、すべてを見られる。世界中のどこにでも目を持っている。地理的にも歴史的にも、すべてを見てきた。人間のやることを、全部知っている。 無限ともいえる知性、あるいは思考は、どこへ行き着くのか。壮大な実験を人間はスタートさせて、そのまま忘れて…

非人称の明晰

当事者でない人々にとって、白黒をつけることはメリットであるに違いない。それは社会が好コントロール装置だからである。たとえば、ハンチントン病を発症する可能性のある人々に対して、生命保険会社はどのように対処すべきか、という問題を考えてみればよ…

半直線的人生、無人島レコード、媒介関数の発見

人間の人生が半永久的に長くなった今、人は現実というものをどう捉えて良いのか、迷っているように僕には思える。たとえば、数十年しか生きられないとわかっている人生ならば、自分ができることと、とてもできそうにないことがかなり明確に判別できただろう…

mind magic multiplicity

Wシリーズ第2巻、読了しました。魔法の色を知っているか? What Color is the Magic? Wシリーズ (講談社タイガ)作者: 森博嗣出版社/メーカー: 講談社発売日: 2016/01/19メディア: Kindle版この商品を含むブログ (1件) を見るかつてなく…

Walking Margarine

Wシリーズ一作目、読了しました。彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone? Wシリーズ (講談社タイガ)作者: 森博嗣出版社/メーカー: 講談社発売日: 2015/10/20メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る × × × 「逆に言えば、先生…

Fractal Apoptosis

因果関係は、幻想かもしれない。 「鶏と卵の関係」とは、互いに相関のある二つの事象に対して、原因と結果を割り振れない状況をいう。 その起源が深い籔に覆われた、不確定な現象。 僕らはそういったものに出会うと、片付かない気持ちになる。 不安、といっ…

Ouroboros Optimization

森博嗣のWシリーズを先日、図書館で借りて読み始めています(第一作の『彼女は一人で歩くのか?』)。 本が薄いなと思いましたが、無駄が排除されたシャープな印象を、Vシリーズ(これも先日から電車内用に『赤緑黒白』の再読を始めました。文庫版は表紙がオ…

石黒浩と森博嗣

『"糞袋"の内と外』(石黒浩)を読了しました。序盤を読みながら、何度か『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』(森博嗣)の内容を連想し、それもあって、この二人は似ているかもしれないと気付きました。 一度そう思い込むと不思議なも…

人間の定義、幽霊の希望

「君はいつだって、どこへだって行ける。でも……、ここへ来た目的は?」 「人間じゃない生きものを見たかった」 「ロイディは生きものじゃないよ」 「生きていないの?」目を見開いて、クロウ・スホはロイディを凝視した。「でも、話ができるし、歩いているわ…

思考の自由、意識と関係、その起源

誰もあなたに助言したり手助けしたりすることはできません、誰も。ただ一つの手段があるっきりです。自らの内へおはいりなさい。(…)もしもあなたが書くことを止められたら、死ななければならないかどうか、自分自身に告白して下さい。何よりもまず、あなた…

暑さと半死、それは修行なのかもしれない

暑いです。 こうまで暑いと、能動的になる意志が熱気に奪われる心地がします。意志は能動性の言い換えのようなもの。 先に受け身の出来事があっても同じで、意志がなければ受け続けるだけ。 「それはいやだ」という反逆が、人の意識の始まり。 だから「それ…

理屈の意志、知性の透徹

「理屈はあとからついてくる」とは逆の方向。 「有言実行」よりも抽象的。知性への信頼。 個の超越。 攻撃は最大の防御という言葉があるが、相手が防御しようと構えている場合には、そうそう簡単に有効な攻撃をすることはできない。むしろ相手が攻撃に転じる…

零の禅、思惟の啓蒙、メカニスムの持続

森博嗣のVoid Shaperシリーズはいま二作目を読んでいます。 (タイトルの"blood"、"scooper"に、装幀が"bamboo"です)ブラッド・スクーパ - The Blood Scooper ヴォイド・シェイパ作者: 森博嗣出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2013/04/26メディア: Kin…

連想の契機、四次元の意識空間

『博士、質問があります!』(森博嗣)に、SFのテーマで4次元の解説があって、 その中に「厚さ方向にだんだんと表情を変える金太郎飴」という例があります。 二次元空間にいる人(たとえば紙に描かれた人)が、 空間を通過するその金太郎飴を見ると、 たとえ…

『孤独の価値』(森博嗣)を読んで

孤独の価値 (幻冬舎新書)作者: 森博嗣出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2014/11/27メディア: 新書この商品を含むブログ (13件) を見る以下、抜粋とコメント。 小説を呼んだり、ドラマを見たり、といったフィクションの世界に浸ることもできるし、また、現実を…

夏秋と彼岸

『The Void Shaper』(MORI Hiroshi)を数日前に読了して、 その数日前に読んだ箇所が発見で、 しばらく寝る前に考えるなり思うなりしていたのですが、 昨日と今日の起きがけ(といっても時間は長いですが)に感じたことを 書いておこうと思います。抜粋した…

図書館員と「可能性の感覚」

一段落して、読書生活を再開し、またこれまでを振り返ったりしています。大した文章ではないですが、講習の応募のために書いた文章を載せます。 私は大学院を出てから去年の9月末まで6年半、神奈川県の○○○で働きました。それから約半年の準備期間を経て、…

小島信夫-(曼荼羅)-森博嗣

とにかく、そろそろ色々調べ始めることにしましょう。柔軟の第十一歩、遍路出立条件 - お遍路天狗への道と、昨日書いたところの今日に『寓話』(小島信夫)を読んでいて、四国遍路の記述が出てきました。読んでいる間は特に驚かなかったんですが、そろそろ小…

『喜嶋先生の静かな世界』(森博嗣)を読んで

いつも平日夜は一日おきに小説二冊を交互に読んでいますが、 今回はちょうど年末で、先週後半にうち一冊を読了したので、 仕事納めの今日に読了するようにもう一冊を毎晩読みました。 年始からは二冊とも新しく始められるわけできりがよいです。+*+*+*…

女性への適応と行動について

「きおくをことほぐ」タグの(4つ前の記事は零回目として)一回目ですが、 言祝げるような内容でない予感が書く前からしていますが、 大事なのは内容の評価(ニュアンス)ではなく「縁が生まれる」という現象そのものです。 過去に対する評価は常に、その時…

山岸センセと揖斐くん

相変わらず土曜日の話。最近、土曜にVeloceにいる時間が長くなりました。先週は『「しがらみ」を科学する』(山岸俊男)を午後いっぱいで読始&読了し、 今日は『安心社会から信頼社会へ』(山岸俊男)を5時間強で半分読みました。 前者はちくまプリマー新…