human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

色即是空、お布施、命の重さ

江戸時代のお伊勢参りのマンガを読みながら考えたこと。

今でいうボランティアと、
お布施、またはお接待の感覚は、
違う。

「情けは人のためならず」
という言葉は、その誤用でない正しい意味の方を考えても、
力点があるのは「結局は自分にかえってくる」ことではなく、
その相手から誰から色々経由して自分に影響はあるかもしれないが、
とにかく、人にかけた情けは「ぐるぐる」すること、の方。

で、たぶん「ぐるぐる」自体に意味はないし、
結果として具体的に影響がどこにいくかも、あまり意味はない。

このことわざは、昔の感覚を想定すると、
ことわざによって意味(解釈)が生まれるというより、
意味を見出そうとする意識に対して「いや意味はないんだ」とたしなめる、
慣習以上の読み込みを慣習に引き戻す効果、
があったのかもしれない。
「無駄なこと考えるのなんておよしよ」という。
(これは加藤典洋のいう「日本人の無思想」と関係があるのかないのか)

「色即是空、空即是色」
も、この視点においては同じ言葉だと思う。

 × × ×

「現代の課題は「空即是色」の感覚(への対応)にある」
といったことが、見田宗介が昭和の終わりに書いた文章にありました(『白いお城と花咲く野原』)。

バーチャルなものごとが生活・経済・政治に大きな影響を与える現代は、
当時よりいっそう当てはまる認識といえます。

ところで、当然ながら空即是色は色即是空とセットです。
セットという意味は、表裏一体であり、置換可能であること。
しかし、では、現代社会の感覚として、
「色即是空」の方は、当たり前と言えるか。

そうではない。
明らかに、言葉の重み、実効性が、「空即是色」の方に偏っている。
生を言祝ぎ、誰もが生産し、死亡率100%と口で言いながら死を社会的に隠蔽する。

 × × ×

「ないものをあらしめることであるものをなからしめる」
という言葉が、去年の秋ごろからずっと念頭にあります。

何の著書だったか、内田樹が「安宅の関」という能の話の中で、
弁慶が敵方?の関所を通るために口舌を奮い立ち回る場面について表現した言葉です。

ないはずの手形(か許可証か)をあらしめる(あるように見せかける)ことで、
ある(起こる)はずだった関所での戦いをなからしめた。

以下、そのウチダ氏の文章の中にあったか記憶にありませんが、
この両者には、あるバランスが存在する。
何かを生み出せば何かが失われるが、
失うことなく生み出し続けることはできない。
 言葉の両義性も性質として似たものを感じますが、
 (たとえば、あることわざにはたいてい意味が反対のことわざがある)
 これは余談かもしれません。
これが公理のようなものだとすれば、
何かを失うことなく、どんどん生み出し続けることができている、
という思い込みは、いや実は失われているものがあることを気付かせない。

 × × ×

僕の関心は、
「みんな気付いていないが今どんどん失われ続けているもの」
にあります。

古本をセット売りすることでその現代的な価値を復活させる(創造する)ことは、
その「失われ続けているもの」には実は価値があるんだ、
と言いたいからやっているのかというと、
全面的にそう、というわけでもありません。

 普遍的な価値というものは、ない。
 現代社会でそう言い張るものは、文脈に関わらず、
 現代で「普遍的な価値」として機能している「お金」にリンクしてしまう。

僕は、
その人にとっての価値は、その人が見出すものだと思っています。
きっかけがどうあれ、どこかで必ずこのプロセスを通るべきだと。
そうでなければ、
もし、そうでないことを究極まで推し進めた場合、
その人がその人であることの意味は、なくなります。

そこまで極端な例は滅多にありませんが(しかし僅かにせよある)、
そういう方向性の肯定によって社会が回っている、と思います。

それは、危うい。
お金の比喩としての「自転車操業」とは比較にならない危うさがある。
精神のことだから。

そして、危うさから逃れる(リスクを避ける)ために真面目を軽蔑する、
ことが生存戦略になる状況は、不真面目を超えて、
頽廃だと思います。
(社会システム自動化の発展は、
 この頽廃への自覚を遠ざけてくれますが、
 これが「あるものをなからしめ」ているならば、
 その代償に何が生み出されているのか)

 × × ×

本を読むことを、
孤独な営みではなく、
対話だととらえること。
相手は著者に限らず、過去、現在、あるべき(あったはずの)未来。

単なる思い込みでない対話は、
参加者を変化させます。
一冊読むごとに変わっていきたいという意気。
また、相手も変化させ、新たな命を吹き込みたいという意志。

 × × ×

バランスをとることと、
身の丈感覚を養うこと。

バランスというのは、ここでいえば、
「色即是空」と「空即是色」の両者。

そのためのものさしとして、
自分の身体が用いられていること。

言葉を死なせないこと、
生きた言葉を身体に響かせること。
「居着き」という武術所作が参考になるでしょう。
もちろん、反面教師として。

教師半面、
学徒半面。
 
 
今年もよろしくお願いします。
(だいぶ文章のスタイル変わりましたけど)