human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

2020-01-01から1年間の記事一覧

ゆくとしくるとし '20→'21 1

一年を振り返るというとき、 今年は社会的にはコロナ問題で埋め尽くされていましたが、 僕自身はその影響を直接受けたというよりは、 そのニュースに触れて考えさせられることがとても多かった。 だから、書くならそういう話になる。というより、今年書いて…

「権力を取らずに世界を変える」個人編

下記引用の太字と傍線の意味は、文脈上の種類の違いです。 何十年もまえから、科学的研究は、もはや疑いのない正説という指針のもとに行われることはなくなった──とりわけ、認識理論および科学理論においてそうであった。一般に受け入れられた方策は、「プラ…

ポスト・トゥルースの意味

ルーマンの文章はことさら、その文章だけ読んで何を言っているかがさっぱり分からない。 だからその文章に補助線をいくつもいくつも、たくさん足すことになる。 すると当然その理解は自分(の文脈)だけのものになるが、同時にもう一つ気付く。 補助線を描き…

重力距離の縮尺

「ピー、フィー」 女は窓辺に駆け寄って、身をねじって探した。鷹の姿はどこにも認められなかった。しかし窓の外には思いがけない光景がくり広げられていた。向いの箱形のビルは黒々とそそりたつ岸壁に変わっていた。その隣りの白タイルの建物は山腹に横たう…

こころのこどもとともに

彼女はガールが運んできたミルクを飲もうと、つぼを傾けた。そのとき思いもかけず、つぼから流れでた液体が、紫の細長い滝のように見えてはっとした。それはすぐに影の悪戯、つぼの真上に干してあったスカーフの色が映っているのだとわかったが、つぼの注ぎ…

システムの主観、遺伝子の語り

なにかが述べられなければならない。つまり、他者が存在すれば、すくなくとも善良で平和的な(あるいは邪悪で攻撃的な)意図が示されなければならないのである。 「第一章 社会システムのオートポイエーシス」p.14 ニクラス・ルーマン『自己言及性について』…

Can one speak about unspeakable? (6)

沈黙を思う。 ひとりの沈黙。 共同的な沈黙。ひとが誰かといる時、 その場に一緒にいることがコミュニケーションとなる。 何かを伝えあい、なにかが通じあう。 意図から外れて、意図をすり抜けて。 沈黙は二人のかたわらにつねにある。雄弁の沈黙、無口の沈…

『生活世界の構造』読了

『生活世界の構造』(アルフレッド・シュッツ、トーマス・ルックマン)を本日読了しました。長かった。 一年くらいかかったでしょうか。監訳者あとがきを読んで、巻末の事項索引にまで線を引いて、そしてその流れで最初のページから(自分が線を引いた所だけ…

司書ブログ更新

一年ぶりですが、個人事業HPのブログを更新したのでリンクしておきます。選書したセットが自分の仕事の価値観に関わるものだったので、 これを機会にと考えてみました。この089は相当に内容の濃い鎖書なので、引き出せるものはもっとあるはずです。もとい、…

デジタル平安時代の崩壊とその先

日本の歴史を見ていると、外国でもそうかも知れないが、何か外来の事変に出くわすと、内に蔵せられて今まで気のつかなかったものが、忽然首を動かして事物の表面に揺ぎ出て来るのである。何か刺戟をもたぬと心の働きの鈍るのは、個人生活の場合は固よりそう…

「不気味の山」とリアリティの解像度

電子の仮想空間が誕生する以前から、人間は夢を見ていた。夢と現実を取り違えないでいられたのは、夢が現実に比べて圧倒的にデータ量が少なかったからだ。多くのメモリィを必要としない、解像度の低いものだった。合理的な秩序も、緻密なディテールも、そし…

先天性ニヒリズムの克服法

スニーカー刑事は立ち回る。 事件は人心の闇への招待状。 参加は強制の呪われた祝宴。 死の足跡をたどる即席の詩。 生の所業は諸行無常への道。 手応えはたしかに存在する。 闇を照らせば有象が浮かぶ。 光は見えぬ無象を消し去る。 後先はなくただ存在があ…

対話と株式会社性、誠実な近視眼と形式に対する食傷

党派性を超えて政治を語ること。 政治とは利害調整のことだが、党派が対立するのは、 こちらとあちらの利害が異なるからである。互いに利益となる政策なら反対意見は出ないし、 互いに損害を生む事業は誰もやろうとは言わない。 一方の利益が他方の損害を招…

ハイエクを読んで:被害者先取、他律主義、そして自暴自棄

まさしく、ほとんどすべての人が望んでいるからこそ、われわれは社会主義への道を進んでいるのである。その歩みを不可避なものとするような明白な現実があるのでは決してない。「計画は不可避である」と主張されている問題に関しては、あとでぜひとも論じな…

日常生活の抽象とその豊穣

『生活世界の構造』(アルフレッド・シュッツ)を読んでいます。 隔日数ページずつで、現在500ページ少しまで進んだので、たぶん半年近く読み続けています。生活世界の構造 (ちくま学芸文庫)作者:シュッツ,アルフレッド,ルックマン,トーマス発売日: 2015/11/…

香辛寮の人々 2-9 Can one speak about unspeakable? (5)

フェンネルは向かいの椅子に向かって話しかける。 「すべての言葉は沈黙に通ずる」 テーブルには彼以外だれも座っていない。 「言葉というか、会話だけども。二人で延々と続けていれば、いずれお互いに言うことがなくなる」 もちろん空間は返事をしない。 「…

小川洋子とイチローと「善意解釈の原理」

自由市場におけるある種のウソは、人々に犯人をまるで透明人間のように扱わせる。問題はウソそのものにあるわけではない。システムに最低限の信頼が必要なのだ。古代の環境では、ウソの中傷を広めた者は生き残れなかった。 善意解釈の原理は、相手の発言をあ…

<AR-F05> たとえばそれは杉田水脈氏を「生む機械」

人が他人のために生きるのは、彼への関心がそこに伴うから。 どんな無意味な作業にも意味が見いだせるのも、そのためだ。 けれど、社会共生システムの高度化が「無関心」に仕事を割り当てると話は変わる。 無関心の強制が、人に意味の境界を既成とみなし、無…

20日目:青龍寺の先達と「なずな」のおかみさん 2017.3.20

20日目> (36)青龍寺 → 宿(なずな) 16.6km (1)マメができた (36)に着いた時に左足の親指内側の鼻緒とこすれるところにマメができていることに気付く。 パッと見で澪えないので出現過程を見落としたか。 鼻緒がきつく指を使えていなかったのでこすれてできた…

19日目:長閑で平凡な日 2017.3.19

(33)雪蹊寺〜(35)清瀧寺(BI[ビジネスイン]とさ) 22.1km (1)ゲタの具合 歯が両足とも右側が大きくすり減る。 左足で顕著。 右足は意識すれば平らになる傾向。 前の[=一足目の]一本歯だと真逆(両足とも左側)だったハズだが… 体が傾いてる? ずっと意識し続…

18日目:二種類の素朴、必然性の伝播、遍路トイレ事情 2017.3.18

(30)善楽寺 〜 (32)禅師峰寺 → 宿(えび庄) 22.5km(+サンダル2km) (1)初のサンダル[=スポーツサンダル]スタート身体がぎこちない、フワフワした感じだった。 [サンダルから]ゲタにはきかえるとシャキっとしたような。 出発前の夕方のゲタ歩きのような「ゲ…

書評サイトのこと

https://www.honzuki.jp/user/homepage/no2314/index.html 自分が過去に書いたブログ記事を何かのきっかけでふと読み返した時に、 本について書いてある記事を書評サイトに投稿することが時々あります。さっき、そのようにして投稿したのが97冊目でした。デ…

『鞄図書館』と「鎖書空間」

これまで幾冊もの本を取り上げてきた。小説はもちろん、伝記、旅行記、闘病記、日記、童話、詩集、歴史書……等々、ジャンルは多岐に亘る。本の選択は私に任されており、どんなにアンバランスな組合せになっても(例えば『武蔵野夫人』と『不思議の国のアリス…

<AR-F04> Innocence Mirror

言葉は常に両義的で、言い放つ瞬間に反転することがある。 その身に余る言葉は、純粋な鏡の前で無慈悲に己を裏切る。 行動の目的に拘る男は目的意識に囚われているのではない。 目的の存在理由は行動に必然がないという観察ゆえのこと。 キーティングは、自…

身体性の賦活による無意識へのアクセス経路構築

毎日新聞日曜版に連載している梨木香歩氏の「炉辺の風おと」のなかに、 興味深い二冊の本の紹介がありました(7/26日版)。 マイケル・D・ガーション『セカンドブレイン』 傳田(でんだ)光洋『第三の脳』紹介によれば、タイトルにある「第二の脳」「第三の脳…

17日目:武道的歩行探求、下駄歯摩耗問題 2017.3.17

(28)大日寺→(29)国分寺→宿(南国ビジネスホテル) 20.8km(+サンダル2km) (1)新ゲタ 歩くうちに慣れてきて、踏み込み方も変えて調子はまずまず良い。 鼻緒の締め付けは前より強いが指が痛むほどではない(→慣れる? か伸び待ちか)。 最初歩き始めると歯の外…

16日目:宿に新しい一本歯が届いた日 2017.3.16

引き続き、当時の日記を抜粋しながら振り返ります。 →宿(サイクリングセンターいわや宿) 15km (1)遅めの出発 [歩く予定の]キョリが少なかったので明日以降の予定を朝に立てる。 上限25kmだと宿選びが難しい...ゲタを替えて歩行キョリが延びればやりやすい…

ストイックの倫理

アイン・ランドのリバタリアニズムに通ずる記述を見つけました。現代的な個人主義の理解は、この引用に寄せて書けば、 「倫理的最高価値としての自由」が、 「自己以外の存在の変改や抹消を意味」する、 ということになりますが、ほんとうの(発祥としての)…

ポストモダンとはなにか

ちょうど選書作業中に見つけたので引いておきます。これを読むと、思想とは生き方なのだと改めて思います。そして、「鎖書店」のコンセプトがポストモダン的であることに気付きました。それで特に驚いたわけでもありませんが。 ポストモダンとは、モダンの内…

個人を殺す個人主義の時代

権力/依存、あるいは命令/服従というタイプの関係は、ひとたび作動するとそれだけで自らを強化し、正当化する傾向を持つのである。言うまでもないことだが、かつてジャン・ジャック・ルソーが述べたように、「おのれの力を法に、そして服従を義務に変える…