human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

モジュール化と「無知の無知」(前)

 

進化は、同時に他のシステムにとっての環境世界でもあるような変動するシステムによって、他のシステムに適合あるいは拒否を強いながら、展開していくのである。このことは変化する環境世界の内側における、変動する構造と変動せずに維持される構造ということになろう──どちらも、分化の強化となるのである。社会進化のこうした圧力のもと、構造的分化は、機能的特定化を強化し、伸張する。そして、その結果が、社会全体の機能的分化であり、われわれがよく知っている社会の近代のタイプということである。

「第七章 社会、意味、宗教」
太字は引用傍点部

ニクラス・ルーマン『自己言及性について』

当たり前のことを小難しく言い回しているような部分。
でも、敢えてその言い方をする意味があるような気がして立ち止まる。

一文目と二文目の対応関係はたぶんこうです。

 「適合」─「変動する構造」
 「拒否」─「変動せずに維持される構造」

この両者が「どちらも分化の強化となる」という、
この一点に最初は「うん?」と思いました。

冒頭の「進化」の主語はたぶん社会で、
社会の進化における諸システム同士の変化の様態が記述されている部分です。

例えば、科学技術システムが進歩すれば教育システムも変わらざるをえない。
 学習設備は(教科書→タブレット端末)変えよう(=「適合」)、
 でも義務教育の階層制度(小中高)は据え置きで(=「拒否」)、
というような。

言葉の見かけとして、分化に寄与するのは「拒否」だけではないか?
と思い、だがそうではないのなら、「分化」の意味を改めて考える必要がある。

「分化」は、独立化とか、自立(自律)化とは違う。
社会における「分化」の好例として(学問等の)専門分化がすぐ思いつきますが、
学問分野が細分化するにつれ個々の分野が独立していく、ことは意味しない。

オートポイエーシスシステムの要諦は、システム内部と外部環境の関係にある。
 システム内部で新陳代謝が完結していること、及び、
 システムには情報をやりとりする外部環境が必ず存在すること。
言葉の使い方が若干怪しいですが、システムは存立基盤に矛盾があることは確か。


話を戻すと、「分化」を言い直せば「モジュール化」ではないかと思いました。
システム内の要素配置における、機動性や連携の有機性を考慮した部品群のこと。
これまた記憶が曖昧ですが、大学で最適設計工学を学んだ時に覚えた用語です。

モジュールの役割は、モジュール自体の価値の追求ではなく、
そのモジュールを含んだ全体であるシステムへの貢献にある。

モジュール設計は、例えば車の製造工程を考えると、
どの部品をひとまとめに(例えば工場の一ラインで)組み立てれば効率的か、
という価値基準(これを目的関数と呼ぶ)をまず設定し、
目的関数(たとえば製造コストと工程日数)が最小化するように部品群を決定する。
あるいは、組み立て順序や工場内のライン配置を決定する。

ある部品(やその組み合わせ)は変えた方がいい場合もあるし、
他を変更してもこの組み立て工程は最初から固定した方がいい場合もある。

話を戻せば、この前者が「適合」、後者が「拒否」にあたるわけですが、
この両者を駆使して達成されるのが、工程システムにおける「モジュール化」です。


「無知の無知」の話にたどり着きませんでした。
後半に続きます。