human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

無題13

『クマと仙人』
ジョン・ヨーマン作、クェンティン・ブレイク絵
のら書店

この本を選んだ理由:
 ほんわかした挿絵に惹かれた。

紹介文:
 森の中でクマとばったり出会ったら、みなさんはどうするでしょうか? 全力で逃げますか? 死んだふりをしますか? そんなことが実際にあったら、こわいですね。でもだいじょうぶ、この本に出てくるクマは出会った人をおそったりはしません。ちょっと不器用ですが、やさしくて力持ちで、しかも向上心があるのです!
 この本は、不器用で頭のあまりよくないクマが、森に一人で住む仙人のもとで、いろんなことを学んでいくおはなしです。
 仙人の家の門には、家庭教師の生徒を募集する看板がぶら下がっています。クマはその看板の文字が読めないのですが、運がよいことに、仙人が看板をなおしているところにちょうど通りかかります。仙人が独り言をつぶやくと、クマは自分が話し掛けられたと思って返事をする、と、ここから二人の会話が始まります。人にものを教えたい仙人と、頭がよくなりたいクマのおもわくが一致して、仙人がクマの家庭教師となって、一緒に生活をしながら様々な科目を教えることになります。
 クマは「科目の合格証書」をもらうために、仙人の出す課題に熱心に取り組みます。その科目は、舟をこいだり、料理をしたり、トランプに応急手当まで、さまざまです。ところが不器用なクマは、すぐに目移りするし、加減を知らないので失敗ばかりします。( (1):p122)いかだの上でトンボを追いかけていかだをひっくり返したり、( (2):p.57)料理するためのたき火に空気を送ろうとして勢いよく吹き消してしまったり。でも、( (3):p43)釣りの科目では釣りざおをあやつる仙人の横で、前足で魚を放りあげてたくさんとったり、( (4):p126)川に落ちた仙人を背泳ぎで助けたりと、得意な分野では大活躍します。授業の中で予想外のことばかりが起こって、仙人は大変な思いをしますが、クマが熱心に授業を受けてくれることが嬉しくて、どの科目にも結局は合格を出します。
 この本の面白さは、仙人の優しくて寛容なところとクマの素直さがとてもよくマッチしているところにあります。クマがどれだけ失敗しても仙人は怒らず、クマがしょげている時は元気になるような言葉をかけてあげます。一方で、クマは目の前のことに夢中になってもともとの科目をめちゃめちゃにしてしまいますが、機転のきいた仙人のほめ言葉に気をよくして、次の科目はなんだろうと興味津々になります。仙人が失敗した時でさえ、それを自分への指導だと思って機嫌よく助けてしまうのです。
 二人が仲の良い友だち同士のように、気分よく毎日を過ごしていくのを読んで、こんな日がいつまでも続けばいいなあと思ってしまいます。でも、先生に学んだ生徒は、いずれは卒業しなければなりません。教える科目が少なくなってくると、仙人はこのことを考えて少し悲しくなりますが、ある朝にとってもよい案が思い浮かびます。クマへの思いやりに満ちたその素敵なアイデアは、ぜひこの本を読んで、確認してみてください。

クマと仙人