積極的消極主義
「先程きみは驚くほどはっきりと、ぼくのことを消極主義者だといったね。でも、それには二種類あるんだ。消極的消極主義、これはヴァルターのもので、それと積極的消極主義!」
「なんなのよ、積極的消極主義って?」と、クラリセは好奇心に駆られて尋ねた。
「囚人が脱獄の機会をうかがっている態度さ」
「なあんだ」、クラリセはいった。「言い逃れね」
「まあね」と彼[ウルリヒ]は譲歩した。「ひょっとするとね」
ムージル『特性のない男Ⅰ』p.132
Q:囚人は何の罪を犯したのか?
A:何も犯していない、あるいは任意である。
Q:なぜ収監されたのか?
A:自分から入った、あるいは抵抗しなかった。
Q:脱獄する気はあるのか?
A:意思はあり、意志はない。
Q:収監は彼の望んだ事態か?
A:ひょっとするとね。