human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

「待ち方」について(前)

 「二ヵ月と十日」と彼女は即座に答えた。「彼にはじめて会ってから、消えちゃうまでよ。二ヵ月と十日。日記をつけてるから覚えてるの」
 オレンジ・ジュースが運ばれ、空になった僕のコーヒー・カップが下げられた。
 「あの人が消えてから、三ヵ月待ったわ。十二月、一月、二月。いちばん寒い頃ね。あの年の冬って寒かったかしら?」
 「覚えてませんね」と僕は言った。彼女が話すと五年前の冬の寒さが昨日の天気みたいに聞こえた。
 「あなたはそんな風に女の子を待ったことある?」
 「いいえ」と僕は言った。
 「ある限られた時間に待つことを集中してしまうと、もうそのあとはどうでもよくなってしまうの。それが五年であろうと、十年であろうと、一ヵ月であろうとね。同じことなのよ
 僕は肯いた。
村上春樹羊をめぐる冒険(上)』

今、「羊」を読んでいます。

平日読書の小説(いつも二冊を併読)として村上春樹は最近高頻度です。
とはいえ遅読で、まだ未読の作品がたくさんあります。
古い作品の次は新しい作品を、と思っていて、一つ前は「世界の終わり」でした。
古いと新しいの基準が不明ですが…「羊」は古い方です。

「1Q84」と「多崎つくる」にはいつたどり着けるのか…前者は今年中には。


春樹小説に出てくる女性はどこか、不思議な魅力をもっています。
まず非現実なのだけど、その「ありえなさ」とは別のリアリティがある。
それは服装や髪型のせいかもしれないし、小粋で軽快な会話のせいかもしれない。
僕の印象では、彼女らは「何かしら一心なところ」がある。

春樹小説を読んでいて、彼女らにどう惹かれるかはいろいろあります。
今日感じたのは、「全然分からない感覚だけど分かりたい」という思いでした。
異性であれば特に、自分にないものをもっている相手に惹かれることがあります。
その伝でいけば、彼女らは僕にないものばかりをもっている。


「待ち方」について書こうと思ったんですが、前置きが長くなってしまいました。
続きは明日以降に。