今日のブックオフでは偶然の出物がありました。
いつも店に入ると買う品を決めてからマンガを立ち読みするのですが、
今日は店員さんの棚整理の関係で先に立ち読みをしました。
立ち読み後は疲労しているので、選ぶというより流し目で出会う感じになる。
『春は鉄までが匂った』(小関智弘)と『ハミザベス』(栗田有起)です。
小関氏は前に新聞書評で平川克美氏が取り上げていたので知っていました。
町工場の職人の話と聞けば、機械工学出身としては実体験が想像の助力となる。
旋盤で削っている間の鉄やアルミの匂いを、覚えているような気もします。
少なくとも3回生の頃は機械油のぬかるんだ匂いが日常の一部にありました。
文学の世界には、はじめに言葉ありき、みたいなハッタリがどうしてもある。化(バケ)学的にいえば無臭なはずの鉄の匂いを、鉄の匂いとして嗅げるような人たちを描いてみたいというモチーフで、わたしはひとつの小説を書いた。『錆色の町』という小説は、題が決まってから、人物がどんどん動きはじめた感が残っている。(…)工場の仲間にそのことを話したら、彼らは鉄だけではなくて、削っているときには真鍮や銅やアルミニュームの匂いを嗅ぎわけてみせると断言した。真鍮を削っている時に煙草を吸うとふだんよりは甘いのは、工場の人間なら誰でも知っている。
「カバのあくび」p.40-41(小関智弘『春は鉄までが匂った』)
一方の栗田氏は、長嶋有の書評本(たしか『電化製品列伝』)で知りました。
書評本では『ハミザベス』が載っていましたが、最初は別の本を手にしました。
それが『オテル モル』という地下ホテルフロントのお仕事小説で、
この小説が僕の生活を色々変えたことを今日思い出したので少し書きます。
- 作者: 栗田有起
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/06
- メディア: 文庫
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この本は「心地良い睡眠」がテーマで、そのための工夫の描写がいくつもあります。
その中に「人は真っ暗よりもわずかに明るい方が寝付きやすい」とありました。
僕はもともと就寝時は「真っ暗派」だったのですが、このようなことが書かれ、
登場人物がぐっすり眠る様を見せつけられると「そうかもしれない…」と。
それで寝る前にベッドにもぐりながら読むための読書灯を足下に置き、
ツマミで光量を調節できるタイプなので最弱で点けたまま寝ることにしました。
寝入り具合が変わったかは不明ですが、これはすぐに定着して今も続いています。
ずっと昔人類が星空の下で寝ていた頃の感覚が…とどこかで読んだ気がします。
もう一つは「寝る前は強い光は浴びない」というこれは色んな所で言われている話。
昔読んだ『寝床術』で初めて知り、この時から夜は間接照明だけ使うようにしている。
部屋はデスクライトとアッパーライとしか使わず、洗面所の電球は暗いものに変えた。
けれどその時は、風呂場の照明にまで意識が行きませんでした。
僕は「夜シャン派」(聞いたことないですけど…「朝シャン」はあるのに)で、
わりと寝るすぐ前に入る習慣なのですが、風呂場の照明は当然のように明るい。
それを僕もつゆとも疑わず、『寝床術』で得た知見はそこには及びませんでした。
それが『オテル モル』を読んで、「ありゃ、そういえば」と気付いたのでした。
考えてみると、夜入る人も多かろうに風呂場に弱照明がないのは不思議です。
体を洗う時はよく見えるように、という清潔志向なのかもしれません。
そこで僕は風呂場の照明として蠟燭を使うことにしました。
学生の頃にMALAIKAで買ったままお蔵入りしていたホルダーがここで出番。
風呂場が暗いと最初は色々心配でしたが(ちゃんと洗えるか、とか)すぐ慣れます。
発見としては、自分の体を触覚でよく知れるようになったことでした。
ちょうど体を洗う時に化学繊維のタオルを使わなくなったこともありますが、
視覚に頼らない分、手のひらで各部の肉付きや骨の張りが微細に感じられます。
キャンドルホルダーの写真ですが、これはキャンドルの「均し工程」の途中です。
一般的な円柱状のキャンドルを使っていると分かると思いますが、
使っていくと芯の台座がどんどん下がり、アルミ外枠の底についた段階でも
円柱の周辺部のロウが溶け残っていて、芯が燃え尽きてしまいます。
次のキャンドルを使う時にその変則ドーナツ状の溶け残りを被せてみるのですが、
空気の循環が減って火が弱くなるし、溶け残りはまた同じようにできてしまいます。
どうしたものかな…と思い、そしてあるときふっと閃きました。
アルミの外枠は溶けないし、火にかけりゃいいじゃないか、と。
まあ写真のような置き方はこぼすと危険というか厄介なのでやらない方がよくて、
フライパンの上にのせて弱火でグツグツでしょうか。
エネルギー的には大損な気もしますが…もう少しエコな方法がありそうです。
最近読んだ生活科学本にありましたが、石油ストーブの屋根にのせるのもアリかも。
実はこれが先(直上のリンク)に書いた「リビング・サイエンス」のネタなのですが、
書いてみるとあまりサイエンスという感じがしませんね。
別に無理やり科学的な分析に持ち込む気はなくて、生活の構成要素について考える時の、
一つのツールとしてサイエンスがある、と思っています。
そうか、生活要素に疑問を持つための知識のベースとして、それがあるんですね。
話題が行ったり来たりしていますが、ちらりと曲紹介をしておきます。
『オテル モル』の読中はずっとnknk氏のこの曲が頭の中を流れていました。
システマチックに淡々としていて、けれどほのかに温かみがある感じ、でしょうか。
地下という感じではないですが、脳内再生して読み始めるととてもしっくりきました。
『ハミザベス』は次に有休をとった時に読もうと思います。