human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

クミンコーヒーについて

きっかけはマッドコーヒー

最初にマッドコーヒーの名を知ったのは梨木香歩氏の本ででした。

 最初、この居間に通された時、モシェが言った。
 ──さあ、選択肢が五つある。オレンジジュース、アップルジュース、ミルクティー、レモンティー、マッドコーヒー。
 ──マッドコーヒー?
 ネハマが、おう、といった顔で中空を睨み、本当にマッドよ、と、おどかすように言う。モシェのお得意なの。どういうものですか? うーん、飲んだら分かる。じゃあ、私はマッドコーヒー。よし、正解だ。モシェは満足そうに片目をつむって台所へ去る。
(…)
 モシェのいれてくれたマッドコーヒーは、独特の香辛料の香りがした。よく知っている香りだが思い出せない。(…)何が入っているの。ごく普通のコーヒー粉だ。でも香辛料が入っているでしょ。ああ、それはカルダモンだ。ああ、そうか、カルダモン。私もミルクティーによく入れる。でもコーヒーに入れるなんて考えてもみなかった。
トロントのリス」p.173-174(梨木香歩『春になったら苺を摘みに』)

調べると、カルダモンコーヒーというものはあるらしい。
ただ本書にあるマッドコーヒーは、名の通りマッドなひと手間が入る。
モシェ氏曰く「コーヒーはぐらぐら煮出さないといけない」。
これを読んだ時カルダモンは知らなかったが、このマッドぶりには惹かれた。

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それでいつも飲むコーヒーの豆を挽いてから、煮出すのをやってみました。
僕は豆は深煎りが好きで何より苦さを優先するところがあって、
この時はパオカフェのダークブレンドやイタリアンブレンドを使いました。
ぐらぐら煮ると黒褐色の泡が膨れ上がり、魔女が薬を調合するような雰囲気です。

取り出したコーヒーはドロドロしていて、いかにもエキゾチックでした。
飲むとまずズシリとくる重さがあって、思わず眉を顰めてしまう。
なるほど中東のバザールで飲めそうな強烈な一品だ。
いつもは3杯飲むのですが、この日はこの1杯だけで夜は寝付けませんでした。

カルダモンを知る

この経験があって、しばらくマッドコーヒーのことは忘れていました。
再び思い出すことになったのは、輸入食品店でカルダモンを見掛けたからです。
カレーのスパイスがずらりと並ぶ中に、その名前を見つけました。
そういえばと思い、実のままのものを購入し、家でコーヒーに入れてみた。

するとこれが結構おいしい。
カレーのスパイスという感じではなくて、コーヒーとの相性が良い。
カルダモンの実は皮を剥いて中身を豆と一緒に挽けばうまく混ざります。
ただ香りがきついので、風味付けとしてはワンドリップ5杯で1、2粒がいいところ。

これが数ヶ月前のことで、まず一袋分はカルダモンコーヒーを堪能しました。

クミン登場

残りが少なくなって、もう一度買おうと再び輸入食品店に行きました。
ところがいざカレースパイス売り場の前に立つと、なにやらムラムラしてくる。
普段の食事に飽きる人間ではなくて、けれど自分の思い付きには簡単に流される。
「カルダモンがいけるなら他のスパイスも…」と、実験魂に火がついたのでした。

そしてこういうのは前知識なしにやるからドキドキして面白いのです。
実験に成功したい、というよりは仕込みから結果までのプロセスに興味がある。
自家製味噌汁に生姜を入れて大失敗してもなにかを得られるような人間なのです。
今回は目前に並ぶ各スパイスを、名前と外見で味を想像してみました。

その味の想像は言葉にしようがありませんが、何やかやでクミンを選びました。
実の感じや色(小麦っぽい)がコーヒーと合いそうな気がしたのでした。
そして家で袋を開けて匂いを嗅いで、あらまびっくり。
これぞ「ザ・カレー」、カレー以外の何者でもない香りがしました。

それでもまあ別にいいかと挽いた豆に混ぜて飲んでみると、なかなかいける。
やはり入れ過ぎるとカレーになってしまいますが、隠し味程度でコクが出る。
コーヒーとカレーはもしかして似た者同士なのかもしれない。
そして驚いたのは、一日や二日経ってもいける、ということ。

コーヒーは淹れてから時間が経つとどんどん酸化していきます。
酸化すると「きつくなる」、喉や胃への負担が増えるような印象があります。
普通の言い方だと味が落ちる、ということになるのでしょうが…
なんとクミンコーヒーは、時間経過でコクが落ちない(増す?)のです。

「カレーは寝かせると旨くなる」という思い込みの効果かもしれませんが。。

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写真の左がクミン、右がカルダモンです。
クミンも風味は強くて、ワンドリップで写真(左下)くらいの量がいいです。