sense of sensorについて
愛の対極にあるのは憎しみではない。無関心である。美の対極にあるのは醜さではない。無関心である。知の対極にあるのは無知ではない。それもまた無関心である。平和の対極にあるのは戦争ではない。無関心である。生の対極にあるのは死ではない。無関心、生と死とに対する無関心である。
E・ヴィーゼル「ふたつの世界大戦を超えて」無関心とはただ相手を認知しないということだけではない。相手の体験を恣意的に改竄し自分たちにとってのカタルシスの物語のひとつとして「回収」していくという形の無関心と同時にある。(…)自らが、流布している大きな言葉を横領することで、実は自らの奥深くで”生起した/しつつあることがら”が横領されていく。このふたつの横領に対して反逆し、つまりは横領する自分にも反逆し、まったくの荒野、砂漠の中から、海淵の奥深くから、ぎりぎりのところで発せられた声と言葉をうけとめる。それを可能とするセンサーを創る、センスを学ぶ。
「一日目 岬から始める」p.66-67(新原道信『境界領域への旅 岬からの社会学的探求』)
本書を最初手に取ろうと思ったのはタイトルの「境界」に惹かれたからです。
手に取って、あらためて見た時に「岬」という言葉もあった。
本のタイトルにある言葉として珍しくて、「なんだろう?」と思った。
読み始めてすぐ分かったのは、岬とは「灯台のあるところ」だということ。
灯台(ハーバーライト)と聞けば、まず内田樹氏を思い浮かべます。
歩哨(センチネル)とも繋がる、氏の共同体に関する思想のコアの概念です。
本書はまだ読み始めたばかりですが、きっと自分の関心と繋がってくる。
初めて目にする著者でしたが、今回の「冒険的選書」は成功したようです。
それはいいのですが、抜粋部を読んで「無関心」の連続にぎくりとしました。
「憎しみは愛の裏返し」と言うように、最初のはまあそうだろうと思った。
それが美、知と続いて「あ、これもそうか…」と思う。
醜さに関心を持てば美に到達し、無知を自覚すれば知の何たるかを知る。
現代で無関心が蔓延するのは、そうしないと身が持たないからです。
その意味で自然過程のようなものですが、これは「人工の自然」と言える。
感度を落とさなければ気が狂うほど情報を横溢させているのは僕たちです。
発信を増やす一方で受信しないバランスの悪さも、無関心が取り持っている。
この話は別の機会にまた掘り下げることにしまして…
本記事を書こうと思った発端は抜粋の最後の部分にあります。
センサー(sensor)とセンス(sense)が並ぶのは初めて見ました。
もちろん語源は一緒なのですが、半導体を仕事で扱う自分には結びつきにくい。
そしてそういった感心と関連しつつ別の連想もはたらいたのでした。
機械が複雑になり、また、ハイテクになるほど、プログラムどおりの操作になり、コンピュータに依存したコントロールになる。また、目的が個人的なものから社会的なものに近づくほど、最適の筋道へ自動的に導かれるように設定される。それがテクノロジィというものだ。
ロボットに乗って、ダンスを踊ったり、散歩をしたりするのではない。戦うのである。目的は明確だ。相手を倒すこと。この目的は、個人的なものではない。このチームが持っている一致した目標なのだ。そして、その明確な目標へ向けて、すべては設定される。人間の反射神経や判断に頼っている部分はごく僅かしかない。人間に委ねられるのは、全体を統括し、少しさきを見通すこと、大局的な選択を行うこと、あとは、予期せぬ不具合が起こった場合のバックアップ、くらいである。
結局のところ、戦いを明日に控えてロミが悟ったのは、自分一人で戦うのではない、自分は一つのセンサにすぎない、ということだった。
森博嗣『ZOKUDAM』
この本は森氏の「リアリティ溢れるロボットもの」の第二作です。
リアリティの方向性が「独自に真っ直ぐ」で類を見ない名著です。
先月読了した本書の、この抜粋の最後の部分を連想したのでした。
ふつうは「歯車」と言いそうなところがすわ「センサ」なのです。
どちらも部品に違いないのですが、歯車はソリッドなイメージです。
強度の高い金属で造られ、メカにがっちり嵌って役目を果たします。
あそびがあるにしても、あそびの大きさも精密に設計された値です。
欠ければ全体は動かないが、規格の同じ別の歯車を補充すれば済む。
一方のセンサは電子部品ですが、部品の役割としては歯車と等しい。
ただセンサは「感度」があって、特定の物理現象に「反応」します。
その性質がどこかしら人間的な感覚を呼び起こすような気がします。
取り替えのきく僕らも、独自の感度で、お互い反応して仕事をする。
人間に機械を見る目と、機械に人間を見る目のバランスがあるのだと思います。
+*+*+*
というオチとの関連を言えばそれは後付けになりますが…
最初に抜粋した新原氏の本とは長い付き合いになりそうです。
(本書を買った時の興奮については前に書きました)
それで、本書について書く時に聴く曲↓を決めました。
生活上のほんの偶然からですが、相性が良ければ続くのでしょう。
ことのはぐさ
曲:100回嘔吐
絵:金子開発
声:GUMI