human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

 -書くこと

鏡としての人工知能(森博嗣『血か、死か、無か?』を読んで)

『血か、死か、無か?』(森博嗣)を読了しました。 Wシリーズ第8作。血か、死か、無か? Is It Blood, Death or Null? (講談社タイガ)作者: 森博嗣出版社/メーカー: 講談社発売日: 2018/02/22メディア: 文庫この商品を含むブログ (4件) を見るここへ来て、…

トラックのダッシュボードにイリイチがある世界(1)

『街場の現代思想』(内田樹)を、学生の頃に好んで読み返していました。 こういう仕事がしたい、という明確な像を持っていなかったし、そもそも仕事に対する強い意志もなかった時期、大学院生の頃でした。こんな極端なニュアンスではなかったと思いますが「…

ラヴロフとシュレディンガ

スーパーで同じアパートに住むご近所さんを見かける。「あ、セイちゃんだ。わっほーい。買い物かのー?」 サキさんがこちらに気付いて、手を大袈裟なほどに振ってくれる。彼女は多動症かと思うほど元気一杯で、ふわりとしたスカートがいつも空気を巻き込んで…

香辛寮の人々 2-1 「脳の中の博物館」

時が離散的に流れている。自分の周りを現れては消える事物が、移動ではなく、点滅しているようだ。日の光が、雨の細やかな粒が、チャンネルを切り替えるように明滅する。昼と夜の違いが、左右の違いでしかない。左右とはつまり、決まりごとのことだ。一方で…

ゆくとしくるとし '18→'19 5(完)

年末年始に書くこのシリーズですが、間が空いてしまいました。 原因は2日から長野へスノボへ行っていたこと、その出発までに書き上げられなかったこと。さっきまで読み返して、加筆修正を少ししました。 勢いで書くと読みにくい所がちらほら、 それから、文…

ゆくとしくるとし '18→'19 4

今年の抱負の話をしましょう。 仕事用のHPの更新が滞っていますが、これは「とりあえず更新しておこう」というモチベーションが薄くなったからです。 必要ではない、と思うことは書かなくなった。ですが、その更新が今月また復活すると思います。機械設計の…

ゆくとしくるとし '18→'19 3

実家の庭掃除をしました。竹箒でアスファルトの上をガシガシ掃いていると、抵抗の強さと相性の悪さが身に染みます。 竹の枝一本ずつが触手となり、しかしそれらは巨大な非弾性体を前に、交信の余地なくはじき返される。落ち葉を竹箒で集めてから、合成樹脂の…

ゆくとしくるとし '18→'19 2

人はどのように回復していくのか。この問いを念頭に、訥々と言葉を紡ぎ続けているturumuraさんのブログをずっと読んでいます。 昨日投稿された記事の内容は、普段のように深く考えさせるものでありながら、年の瀬にふさわしいようにも思えました。以下のいく…

「現在主義」と終末論、知と地と血

壮大なる「時の知(chronosophie)」、予言と時代区分の混合、(…)普遍史の言説は、絶えず歴史につきまとってきた。未来への問いから生まれた、このような構成物は、その前提事項と同様、千差万別で(それらは総体的に、循環的にしろ、直線的にしろ、展望な…

Led Lake, Moon Magic

「いやあ、また発見がありましたね。表面部と深部で異なる主ベクトルを形成することで、結果として領域全体の流れ内での局所摩擦を回避するとは、想像もつかないことでした。あれを観察対象として捉えた場合、流れは近似球面方向にのみ存在して、深度は流れ…

香辛料の国 1-9

ローズマリー画伯の言葉を反芻する。「絵を描く間、時間が不思議な流れ方をする」。このことは「不思議でない時間」、すなわち通常の時間の流れ方をも示唆する。 感じる者によって、そして同じ者でも状況によって、時は不規則に刻まれるだろう。すなわち、そ…

香辛料の国 1-8

神の存在は任意である。誰のためにいるわけでもない、我々に関与しない存在として、神はある。信仰して跪くのも、邪教と罵るのも、我々の都合に過ぎない。祈りは浸透し、呪いは顕現する。形のない思念は、神を透明にする。 かつ、触れれば反力で応え、凭れれ…

香辛料の国 1-7

香を永遠に失った者は、月と縁が切れる。湖は止まり、波立たない理想鏡であるはずの水面に、何も映らない。 色を吸収し尽くし返さない者を、風はすり抜ける。彼の周りで流れは淀み、その一点へ向けて、生死の定かでない薄まりは異世界への扉を思わせる。 消…

香辛料の国 1-6

文字のない本。ページを開けば広がるのは白紙ばかり、ではない。我々は紙の上のそれを、普通の本と同様に読むことができる。ただそれは、文字ではない。たとえば僕が、それを見る。読む。その本のあるページは、すると僕に問いかけてくる。僕はその本に対す…

家の葬式、曲の葬送

──「家の葬式」のことを、前にちらりとおっしゃっていましたよね。 ──はい。我々建築家は、家を新しく建てる場面に比べて、家を解体撤去する場面に立ち会うことが圧倒的に少ないのです。近頃はリフォームやリノベーションが流行しておりますが、世間の建築家…

香辛料の国 1-1

透明の理想。感覚に夾雑物がなく、思考が研ぎ澄まされた状態。圏外から流入する全てを許し、境界の内側から生み出される全てを受け入れる。生きていること以外に興味がなく、すなわち生命の存続に拘りがない。混じり合い、溶解し、呑み込まれ、分解される。…

香辛料の国 1-5

存在するものを共有できる人数は限られている。しかし、存在しないものを共有する人数には、限りがない。これは、その価値や重要性とは関係がない。ただそれが、存在するか、しないかの違いだけだ。 けれど、その「ないもの」を、あるように見せることができ…

脳の新陳代謝、雲を食べること

『国境の南、太陽の西』(村上春樹)を読んでいて、ふと「脳と身体の新陳代謝」というキーワードが浮かんできました。 ある一つの場面に対して連想が始まって考え込み、しばらく立ち止まってから読む方に戻り、また別の場面で先の連想に対する反応がある(連…

香辛料の国 1-4

連想の契機、可能性の感覚。夢は叶うと色褪せるというが、これは夢を現実化する能力や資源に恵まれない者の負け惜しみではない。何かができる、自分は変われると思うのは、今の自分には手が届かないが、霞む視線の先に未知の色を見るからだ。 味や香の組み合…

香辛料の国 1-3

色の混じらない虹がある。五つの各色ははっきりと濃く、境界も明確で、五つの独自の主張となる。相手に見せるのはそのうち1つだけだが、その相手はこのこと、つまり「今目にしているのは五つのうちの1つだけ」であることを知っている。ふつうは2つ、持て…

九条と自衛隊、思想のオーソドクシー、手続きのまっとうさ

『さようなら、ゴジラたち』の「戦後から遠く離れて」の章を読む。 憲法改正手続き法案が衆議院を通った頃の、憲法九条論。『九条どうでしょう』(内田樹ほか)は前に読んだ。 加藤氏はこの本所収の内田樹の主張にほぼ賛成している。 (以下、いろいろ混ざっ…

小指関節と肩の痛み、責任回避推奨社会

登壁と身体の話。・ブランクがあいてから身体が重い 筋肉云々より体重のせいで、以前登れたコースに歯が立たない。 無理せずやさしめの課題を多くこなしてまずは減量をめざす。・右小指の関節が痛い 登る課題が難しくなってくると故障の質も変わってくる。 …

思考ノート、グラスルーツと仕事、ヒカリゴケ

10年前の自分の記録帳。 ロルバーンの黒のA5リングノート。 新しいことを始めたり考えるたびにページをあらためてきた。 今日もなにか書こうとして、ふと最初から読み返してみる。同じようなことを院生の頃から考えていたことを知った。 とりたててやりたい…

ながら書き、< harmony / >、1Q84読中

「片手間に文章を書く技術」を身につけたいと思う。 時間が惜しいからではない。 書く時間によってほかの時間を分断させたくない時がある。 それでも書いておきたいことがある時がある。 日常的な思考の継続のバリエーションをいくつか想定してみる。 思うと…

『コンヴィヴィアリティのための道具』を最後まで読むための覚え書き

返却期限までに読み終えることができませんでした。 もう一度借りるか、買うか、どちらかをしたい。 という思いを形にするべく印象をメモしておきます。 (後記:やはりいくらか書評調になってしまいました) × × ×コンヴィヴィアリティのための道具 (ちくま…

free dialogue in vivo 4

「そういものが、あるとしての話です」 現実とは何か? 畑を耕したり、車の部品を組み立てたり、そういうことだけではない。 本を読むことも、一人でご飯を食べることも、そういったことも含む。 現実は、生活と言い換えてもよい。生産性という観点に立てば…

free dialogue in vivo

世のなかの疑問;誰かのための行動が、別の誰かのためにならない。 選択と排除。 視野の広さと狭さが互いを非難していること。 ふたつの目で見える広さと、はりめぐらされた情報網の広さ。 身体と脳のバランス。 個の定義;ひとりの人間が個だとすると、現代…

「身の丈の必要」を探る思想について

前の続きです。 無名性、象徴、役割、そういったものに関して。 そして新たなトピックとして、自給に関して。 × × ×kurahate22.hatenablog.com自給について、いろいろな表現が試みられたturumuraさんの記事のなかで、 いくつか、僕に合うものがありました(…

別の次元の「つきあい」、もう一つのフィルタ ─ ある関係の始終についての演繹的思考 (3)

──ねえ。人って不思議なものね。生きている間は、ほとんど忘れていたのに、死んでから初めて始まる人間関係っていうものがあるのね。 ──海里のこと? ──まあね。あなただから言うけど、その人が死んでくれて初めて、その人をトータルな「人間」として、全人…

人への興味、「突き抜けたニヒリズム」 ─ ある関係の始終についての変転的思考 (1)

マティは、ぼうっとした顔をして、三本脚の腰掛に座っていた。屠ったばかりのヤギの皮をああいう形に組んだ木の杭に被せておくと椅子になるんだぜ、どんどん固くなっていくんだ、と三原が傍らでどうでもいいようなことを囁いた。そこに座っている人間より、…