human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

Physics Research with Quantum Purple 1/n

「ダメだよ、そのスニーカー。ダメだってことは保証します」
 なぜ、果物屋が自信ありげに他人のスニーカーを評するのか。
「ハズレですな、そいつは」
 たしかに「現品限り四十%オフ。しかも箱なし」というのを買ってきたのだが、四十%オフになっていなかった段階では、それなりの値が付いていた。現に履き心地はすこぶる良いし作りだって悪くない。私だってかれこれ四十年あまりスニーカーを履いてきたのだ。良いか悪いかくらいは分かる。が、小倉君は「いけませんな、ソイツは」と派手なシャツと裏腹に、妙に老成した物言いで腕を組んだ。
「それ、ひもがほどけ散るでしょう?」

吉田篤弘『圏外へ』

 × × ×

「今日はね、なんばの方へ行ってきたんですよ。なんばにもジムあります。"Gravity Research"、『重力研究』って、カッコいい名前の店なんですけど、その下にアウトドアショップがあって、靴も買えるんです」
「へえー、大正だけやないんですね」
「いろいろありますよ、市内には。まあ西区から一番近いのは大正のジムやし、他のビル街にあるジムと違って上に広々してるんで、通うんやったら僕はそこをオススメします」
「たしか岩手で始めはったんですよね。どれくらいになるんですか?」
「そですね、去年の夏前に引っ越して、司書講習が始まる前に始めたんで、1年半近くですね。1年と、4ヶ月くらいかな」
「なんかきっかけはあったんですか?」
「いや、もともと興味はあって、今まで機会がなかっただけなんですよ。岩手に引っ越して、ふと近所になんかないかなって探したら、ちょうど去年できたばっかのジムが隣の市にあったんですね。車ないと生活でけへん地域なんで中古車買ってたし、そのジムは講習受ける大学と同じ方面にあったんで、これは通えるなあ思たんですね。週6で朝から夕方まで講義で、まあ座学も多いし体動かさんとようないなあ思てたところやったんで、そしたらもう生活として始めてみようと」
「はあー。スポーツやってはらへんかったのに、できるもんなんですね」
「ええ。一般的にはニュースポーツとして大人だけやなく子どもらにも普及してますけど、僕はスポーツやないという認識でやってます」
「それは、言わはったように"生活として"ていうことですよね。他の人と競うんやなくて、自分の健康のためにやる、っていう感じですか?」
「端的にいえばそんな感じですね。ただシンプルに健康を目指してるというわけでもなくて、この辺のところはちゃんと言葉にしとかなあかんなあと普段から感じてるところなんですが」
「あ、ちょっとニュアンスちゃうんですね。その詳しいとこ、教えてもろてもええですか?」
「うーんと、時間かかりますよ?」
「かまいません」
「えーと、整理できてないんで、話が支離滅裂になるかもですけど」
「んなもんかまへんがな、もう」
「さいですか。では…」

 × × ×

昨日は朝にガレーラに行くと貸切対応中で入れなかったので、自転車で出てきたその足でなんばのGRへ行ってきました。
GRなんばは初めてでしたが、岡山へ行った時に会員カードを作ってはいました。
登ったあとに、すぐ下の好日山荘でシューズを見ていて、各メーカの旧モデル展示品がOUTLET価格で売られていたんですが、5.10のレースアップで見事にピッタリサイズのものに出会いました。
pump.ocnk.net
今は2足目ハイアングル(5.10)と3足目フューチュラ(スポルティバ)を使い分けてるんですが、ハイアングルのソールが削れて中の生地が露出し始めていて、修理キットでなんとかしのいでいる状態です。
これまで3種類使ってきて(1足目はスカルパ・フォース)、登りやすさよりはフィット感と足裏感覚を重視したいなという理想が見えてきましたが(本当は、登れるもんなら裸足で登りたい)、同時に消耗が激しいので次はなるべく低価格にしようと思っていました。
昨日見つけた旧モデルのクァンタムは、ステルスのラバーで足裏は硬そうでしたが、レースアップの効果でフィット感は抜群でした。
そして試し履きの段階で、多少きついが苦労しなくても履ける程度のサイズ感は、既に足に馴染んでいるかのよう。
ハイアングルの経験から、靴を使い込んで前後にはあまり伸びないのではとの思いもあり(フューチュラも右に同じ。逆にフォースはソールに穴が開いた最終盤はサイズもけっこう大きくなっていました)、使い込みによる今後の馴染み方も期待できそうです。

その、ラバー硬め以外は理想通りのクァンタムは「四十%オフ。しかも箱なし」で、「四十%オフになっていなかった段階では、それなりの値が付いてい」て、「現に履き心地はすこぶる良いし作りだって悪くない」、こらまさにその通りやがな、とさっき読んでいて出会った箇所をつい抜粋してしまいました。

が、ダメではありません。
ハズレでも、ありません(確信)。
たとえ「ひもがほどけ散る」としても。
たぶん。

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