human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

『スティル・ライフ』、布を垂らす、ぶり子再認知

雨なので家にいました(と気兼ねなく言えるっていいですね)。
久しぶりにゆっくりと本を読んでいます。

引越しの少し前から本を読む時間が少なくなって、大阪にきてからもしばらくは動き回っていたので読書に頭を使う余裕がありませんでした。

民家の立て込んだ近所の生活音の話を前回書きましたが、雨が降っているとそれらの音が遠のいて、静かに思えてきます。

梅雨にしては雨量が大したことがなく思えるのですが、これからなのでしょうか。

 × × ×

久しぶりに『スティル・ライフ』(池澤夏樹)を読みました。
ずいぶん昔、たぶん学生時代に読んでそれからずっと手放さずにいたようで、使っている付箋の古さでわかります。
あらすじはすっかり忘れていたのですが、星の、夜空を写した写真のスライドを壁に投映して、若い男が二人、淡々と会話をする場面だけ覚えていました。
さっき読み返して、今日までとっておいた過去の自分に「やるなぁ」と思い、この一つ前に書いた「都会暮らしの自分なりの意義」に早速つながりを発見し、刺激を受けて、「今自分が読むべき本であったか」と思いました(このテーマについては結局以下に書かれなかったのでまた記事を改めます)。


染色の話が出てきます。
主人公の若者は織物の原料となる巨大な布地を染める工場でバイトをしている。
成分を厳密に管理した決まった染料に、毎度同じ時間だけ布を浸けるのに、出来上がりの色には個体差が出る。
「一定数の男女が同じ地域に住めば、自然と組み合わせが生まれて役所に婚姻届を出しにくる。でも市の戸籍係が、今年は百組のカップルを町から輩出しようったって、どうしようもない。それと一緒だ」
工場で知り合った若い男と飲みに行って、彼からは変な比喩を聞かされる。
それはよくて、入れるべき液槽を間違えて布地を浸けたために主人公は主任に怒鳴られ、それを庇ってくれた縁で二人は飲むことになった。
「主任は同じ条件の媒染で同じ色が出ないことが不満だが、君はそれが面白いと思うのだろう」
友人が辞めた後で会った時、意外と長続きしていると言う主人公の気持ちを彼が代弁する。

この本を読む僕の右側では2mを超える緑色の綿布がロフトから垂れ下がっていて、風のないわずかな空気の揺れにも応じて微動しています。
この無地の布はインド産で、昨日心斎橋のマライカという雑貨屋で時間をかけて選び抜いたものです。
同色として縦に積まれている同じ商品も、ぱっと見で色の微妙な違いがわかるものもあり、この色にしようかと決めてからも一つひとつを畳まれた状態から開いて光に当てたり光を透かして見たり、かといえばディスプレイ品(壁に吊るしたり、紐でくくって天井からぶら下げられているもの)に目移りして「やっぱりこっちにしよう!」と心変わりするも、そのディスプレイ品が陳列棚にはなくて店員を呼んできて、「この色は品切れで再入荷も未定なんですよ」と言われて結局現品で購入しました。

買う時はシェアオフィスのディスプレイカバー(使わない時にかぶせておく布)にと考えていたんですが、欲しい色で選んだらサイズが必要より大幅に大きくなってしまって(たしか220×150)、もちろん畳んだうえで使えば問題ないのですが、家に持ち帰って天井の高い2階を見上げているうちに「どうせ明日持っていくんだから、せっかくだし上から吊るしてみるか」と思ってやってみると意外に落ち着いたインテリアとして成立したのでした。
2階は4.5畳の板間が壁なしでつながっていて(仕切りは3つのスライドドアで行う)、南北に窓があり、窓にはこれも昔マライカで買ったフリークロス(たぶんテーブルクロス)を吊ってカーテンの代わりとしています。
隙間があるし、窓を開ける時など若干の不便はありますが、その隙間とほどほどの遮光性のおかげで圧迫感は全くありません。
その布主体の部屋の、窓際だけでなく内部にも布を垂らすというインテリア効果について、実際にやってみてから、まざまざと実感しました。

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古いテラスハウスのリノベ物件であるこの借家は1,2階とも全面が板間で、壁が少なく階段もスカスカで、2階天井には濃い茶色の梁がいくつも通り、天井の低いロフトではその中の一番太い梁が横断する、といった珍しい特徴がいくつかあり、部屋を決める前の下見の時は自分がどういうレイアウトをするかが全く想像できなかったのですが、その想像できなさは僕にとってよかったようで、住み始めてから、時間が経つごとに新しい発想が生まれてきます。

その発想の多くが「既存の(前の借家の時に捨てずに持ってきた)ものを活かす」もので、今回はあまりこの点に触れられませんでしたが、いろいろと面白かったのでまた書きましょう。


というわけで「ぶり子ライフ」のタグ、久しぶりに復活です。
このタグは「ブリコラージュ的生活」の意味で命名されて、そんな生活をずっと続けてはいるのですが、当たり前すぎて敢えて使おうという発想が滅多にわかないまま放置されていたようです。
その生活はどんなものか、といえば、例えばこちら↓。
「ぶり子の誕生日」は、こちら↓↓。記事のけっこう下の方です。

cheechoff.hatenadiary.jp
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スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)