まさかこの二人がつながるとは。
好きな画家は大観と久隅守景、外国ならゴッホ、ラプラードなどである。
(…)
守景のは実物は見ていないが、ある画家から新聞に出ていた写真版の「夕顔欄」を見せられて好きになった。この絵には半裸の夫婦よりも、それを見ている作者の気持が描かれている。いいかえれば、日常茶飯事にあらわれている心の動きを描いている。私自身いつも情緒だけを取り出して、それを見ようとしているのだから、こんな絵が好きになるのは当り前だともいえる。
「好きな芸術家」p.159(岡潔『春宵十話』角川ソフィア文庫)
何をもって普通というのかわからないが、世のなかのごく一般的な考えや仕種に以前から興味を持っていた。
いつか普通な人々のことを漫画に描いてみたいと思っていた。
ぼくは本来、漫画における「ギャグ」や4コマものの「起承転結」にはほとんど興味がなく、「ギャグ」などに関しては、むしろ白ける方で、4コマものの「起承転結」も同様だった。
今や「おやじギャグ」と言われる「駄じゃれ」とほとんど同レベルのように思えてならないのだ。
まあそんなぼくの勝手な漫画に対する思想はひとまず置いておくとして、とにかく日常目にしたものや感じたことをそのまま漫画として描いてみたかった。
「chapter 1 ぼくの仕事」p.36(『イラストレーター 安西水丸』執筆:嵐山光三郎、安西カオリ、村上春樹)
前者を読んでいて、ふと「これは水丸氏のことではないか」と思い、
そのような文章を最近読んだ気がして調べると後者に行き当たりました。
後者は水丸氏の手がけた仕事が作品例とともに紹介された本からの抜粋で、
この文章と同じページには『普通の人』という漫画から数ページ抜粋されています。
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もちろん漫画も同じ調子で、漫画になって急に劇画っぽくなったりはしませんが、
単発で出てくる挿絵よりも漫画の方が抜粋下線部について「なるほど」と思えます。
上手い下手は関係なく、というかこれもある意味で余分な要素で、
「目にしたものや感じたことをそのまま」描く、しかもそれだけを描く、
というのは大人にはすごく難しいことなのだと思います。
で、そういう絵を水丸氏が描くいっぽうで、
絵を「そういう見方」で観賞する岡氏がいる。
つまり「情緒だけを取り出して、それを見よう」とする見方。
二人の絵に対する姿勢について、
「抽象性」という言葉が最初に浮かんで、
言葉が足りないかとその説明を考えているうちに、
「ものすごく具体的」という言葉も出てきました。
「批評的態度から遠い」と別の視点からも言えて、
これについては抽象的、ものすごく具体的、の双方に当てはまる。
違わないはずはないのに、
この両者の違いが分かりません。
どういうことだろう…
× × ×
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