human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

保坂氏が書くこと、御所ナイトウォーク、進撃の第八歩(「上を向いて歩こう」)

一昨日の強行軍でダウンかと思われましたが、体調は崩しませんでした。
とはいえ昨日はほぼ動かずに一日読書でした(昼の12時に起きて夜の12時に寝たので、昨日の活動時間は半日でした)。

外出は近所の薬局(徒歩1分。いつも一本歯でないふつうの下駄(駒下駄)で行きます)へ大福を買いに出ただけ。
店がすぐ近くってのはいいですね。物欲がないから余計なものも買わないし。

 × × ×

明けて今日は珍しく7時に起きたので(昨日寝過ぎただけか)、朝食前後に読書をして(宮本常一『辺境を歩いた人びと』を読了。中高生向けの優しい筆致でした)、外出ついでに左京図書館へ返却することにしました。

ついでと言っても方向は逆で、今日は左京図書館→例の定食屋→Veloceというコースになりました。
左京図書館では返却をして朝刊を読んだだけで、次の本は借りませんでした。
歩く道は特に凝らず、図書館のある東鞍馬口通から二条通まで高野川-鴨川左岸を一気に下り、二条通の手前の飛び石で右岸に移り*1木屋町通に入って御池通に抜け、以後は適当にぐにゃぐにゃ進んで三条通に至り、西進して先週見つけた定食屋*2で昼食を食べました(今日の二品は「かつおのたたき」と「鶏と白才のたいたん*3」。

Veloceではまたもや2階席が空いていたので長居して、『人生を感じる時間』(保坂和志)を読了しました。
この本は保坂氏が小説家になる経緯やら氏の生き方についての記述があって、そういうところを読むと「保坂氏の本に没頭することになった自分が今こうしているのは必然だなあ」と思えて勇気が出ました。
自分が今している、やろうとしている具体的なことではなく、その具体的なことをさせる自分の中にある「流れ」のようなもの、その「流れ」に従うことに対して「それでいいんだ」という。
この本全体が「プロセスが大事だ」ということを身をもって示していて、だから(ふつうの本だってそのはずですが)あとがきだけ読んでも何も分かりませんが、最初から通して読み、あとがきの最後の一節を読んだ時には涙が出そうになりました。
僕は「幸福」という言葉に馴染みがなくて日常的にもあまり使わない(「充実」という言葉はよく用います)から「幸福」については何とも言えませんが、保坂氏は書きたいことを書きたいようにしか書かない人で(と本書に書いてあります)、そしてこういうことを書く人です。

 とにかく、今はおかしな時代なんだから生きにくいと感じない方がおかしい。生きにくいと感じている人の方が本当は人間として幸福なはずで、その人たちがへこんでしまわないように、私は自分に似たその人たちのために書いた

「途方に暮れて、考える──あとがきにかえて」p.274 (保坂和志『人生を感じる時間』草思社文庫)

帰りの道もいつも通りで京都御所まで行き、御所の中は前と違って砂利が続く道に沿った草むらスペース(松とかが整然と植えてある)を選択的に歩いて抜けました。
夜の京都御所は正規の道である砂利道は電灯に照らされていて明るいのですが、草むらスペースは(人が通った結果なのか地肌が見える道も所々にありますが)電灯の光が木で遮られるので大体暗いです。
そういうところを好んで歩く意味はあるにはあって(今日見つけました)、地肌の道や道のできてない草むらを歩くのですがスペース全体に木が植えられているためにどちらにせよ林の間をぬって歩くことになるので地面のあちこちに走る木の根っこによくつまずくわけで、実際はつまずくような歩き方はせずに上から踏ん付けることになるんですが、暗くてよく見えないからそれを避けるのではなく踏ん付ける瞬間に踏み込み方を即応させるという修行ができるわけですね。
さすがに一本歯で歩こうとは思えませんが、靴で歩いていても気をつけ方次第で足裏感覚を養うことは可能です。
というわけで夜の京都御所は「烏丸蛸薬師のVeloceへ行く日の定常コース」にしてもよいと思いました(もうなってますが)。

 × × ×

で、例によって今日も余力があったので、帰宅間際に出町商店街で買ったあんぱんを歩き食べしてエネルギー源とし、帰宅後すぐに準備して「高野川ナイトウォーク」に向かいました。

今日は前回のナイトウォークである第六歩と同じコースで、高野川の下りも最後までたどり着けました。
距離にして4kmくらいだと思うんですが、出発前と帰宅後に確認した時刻から計算するに1時間はかかっているようです。
ということは、現状は一本歯だと時速4kmで歩けることになります。
四国遍路の行程距離をこれで割れば行程日数が概算できますが…今のところあまり興味はないのでやりません。

さて、今日の上りは「コツをつかむにはどうすれば…」と考えながら俯き気味(もちろん踏み込む足場を一つひとつ確認しながら)で歩きましたがよく分からず、足指の力がまだ足らんのかなあ、足と一本歯をもっと一体化させにゃならんかなあ、などと「時間が解決してくれる」類の思考をしていました。
が、下りに入ってだんだん気付いてきたのは、「足下ばっか見ててもしゃあない」ということで、そもそも和歩の開発・探究時は足場には目もくれず(場所さえ許せば目を瞑ってさえして)身体の動き方に神経を研ぎ澄ませているわけで、これは身体感覚に敏感になろうとする時に視覚が邪魔になっていることを意味します。

一本歯はちょっと小石を踏ん付けただけでも転倒しかねない(これは本当)のでどれだけ気をつけてもやり過ぎることはないとこれまで思ってきたのですが、結局そうやって視覚に頼り続けていると一本歯歩行フォームの探究は捗らないのでした。
ということに気付いたのが下りで、足場を確認するのがなんだか過剰に俯いてしまうように思えて自然と顔を上げるようにした時に「コツが見えそうな感じ」が僅かにしたのでした*4

というわけで、足場のおおざっぱな確認(一見でちょっと先まで見通す)は時々にとどめて、思わぬものを踏ん付けてしまった時はその時の身体の(反射的)反応を信頼する、という思い切りが必要となります。
これを標語にすれば「前方(上方)を見て歩く」になり、どうせならとかの有名な歌の名前を拝借すればタイトルのようになるわけですが、このタイトルの内実がこれほどの恐ろしさを秘めることなどかつて誰も想像しなかったことでしょう。
同じところなら何度も通るうちに足で覚えて、あまり足下を見ないで歩けるようになるので、しばらくは高野川河川敷に固定してもよいかもしれません。

ちなみに、「歩くコツ」は細かい動作の集積ではなくもっと大きなところから入る必要を感じてはいますが、それとは別に一本歯歩行で注意すべき細かいポイントがいくつかあるので挙げておきます。
 1)歯底が地面に水平に当たるように踏み下ろす:平らな地面に対してということですが、これが水平でないと踏み込みにブレが生じて足首に負担がかかります。僕は身体の(左右方向の)外側の歯底が先に着地してしまう癖があるようで、これは直さねばなりません。
 2)身体全体を使う:これは和歩と同じ。具体的には謎だが、イメージとして。臍下丹田がポイントかもしれない。
 3)大股歩きより速歩を目指す:歩くのに慣れてきたら一歩の間隔を広げていこうと最初は思っていたんですが、これは靴歩きと同じ感覚で簡単に広げることはできません。下の注釈に書いた「下半身のみ前傾姿勢」がどれだけ有効かにもよってきますが、今のところ間隔を広げるよりは足捌きのスピードアップを測る方が現実的かと思います。

*1:飛び石の分岐部分で座ってしばらく川面を眺めていました。前に賀茂川のどこかの橋の下で川面を観察していて日光が横からしか入らない場合に波頭(便宜的に「頭」と書いています)と光の織り成す紋様に魅了されてから、気が向けば立ち止まって川面を眺めるようにしています。今日は飛び石のすぐ横の川面を見ていたんですが、水中に目を移すと小魚が泳いでいて、それがちょうど苔のびっしり生えた直方体の岩と岩の間にできた溝状のスペースにいたんですが、そのスペースの苔やら何やらをしばらく見ていて小魚を見つけた時に初めて「自分が溝状スペースにいる時に見える光景」の想像をしました。前に引用した岡潔の言葉「花を見ている時は花になって…」というのはまさにこれですね。いつもやっていることです。

*2:「鉄亭」と書いて「くろがねてい」というお店でした。先週のブログを書いている間に「鉄定的」という言葉を思いついていたんですが(「鉄なんたら」という定食屋、の意)、「てい」違いでしたね、惜しい。

*3:この名前の通りにメニューにありました。「たいたん」は「炊いたやつ」ということで(まさか「巨人」ではあるまい)、語調がかわいらしいのもいいんですが、初見ではそんな確信が持てなかったのでおそるおそる聞きながら注文しました。

*4:前傾姿勢だと前に倒れそうになるので(上り坂の時のように)簡単にはできないんですが、前傾姿勢にならないと前方への推進力が得られない(靴で歩くときはこれを十分に活用できているわけですが)、という二律背反があって、これを同時に満たす(=前傾姿勢をとりつつこけない)身体運用が必要で、その運用は靴の時とは違う、と言葉にすれば当たり前なんですが、この方向性でいくうえで「下半身のスピードに上半身が追いついていない短距離ランナー」が一つのモデルになるかもしれない、と思っています。前傾姿勢なのは下半身だけで、上半身は前に転ばないように後傾姿勢(?)をとる…果たして可能でしょうか? 今日の行程を終える間際に思いついたので今日は試せませんでした。次回やってみます。