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お遍路天狗の京都修行日記

ただいま一本歯で四国遍路中。

無題6

夜の繁華街。

店が立ち並び、幅広の道を行き交う人々が満たす通りの、しかし行き止まりには崖がある。
両側の店がふいになくなると林が視野を覆い、歩道が途切れた先には剥き出しの地肌が広がる。
通りの皆は街灯や店の明りがその先にも続くかのようにそぞろ歩くが、僕は戸惑う。
そして彼女はどこへ行ったのか?

気がつけばその名を呼んで探していた。
正確にいえば呼んだのは彼女の名字で、僕はその名前を知らなかった。
通りの目が届く範囲には届きそうな大声で呼ぶが、誰も見向きもしない。
あてもなく、理由もわからず、もしかして心配ですらなく、ただ不安に衝き動かされて彼女を探す。

噴水広場へ降りる低い階段の先に彼女を発見する。
彼女は平静に歩いていたが、僕に呼ばれて振り向くと、途端に目を潤ませて駆け寄ってくる。
互いに距離を縮め、抱擁し、なにごとかの会話を交わす。
ちょうど目の前にあった、ウィンナーの香ばしい匂いがするバーへ二人で入る。

中は広いが、カウンター席が3つだけある。
奥の2つに座りメニューを見た気がしたが、「おつまみ盛合せ」があることに安堵してそれを頼む。
残った1つの席は予約されているという。
入口側のカウンター席の後ろの広い空間に、予約した当の男性が地べたに胡座をかいている。

彼女の名字しか知らないのだが、それは僕が彼女を名字でしか呼ばないからだった。
彼女の名前が知りたいと思った。
それは彼女を名前で呼びたいと思ったからだった。
そして、僕はその名前を知っていた。

彼女は振り向いて、目だけで微笑んだ。