human in book bouquet

本格的に本と関わっていきます。

落語的心理テストについて

「スパゲティ本」の話です。

妄想人生

妄想人生

島田雅彦のエッセイを読み終えたので、次に何を読むか考えました。
スパゲティを茹でながら読める軽めの本はないかな…と、
本棚を見渡す前に一冊閃きました。
クローゼットの中のパイン材の棚に仕舞われていた桂文珍氏のエッセイ。

落語的学問のすすめ (新潮文庫)

落語的学問のすすめ (新潮文庫)

手に取って少し見ると、エッセイではなく関大での講義録でした。
まあ落語だからすらすら読めるだろうと思って、まあ読めるのですが、
文珍氏の声を脳内再生しながら読むと、引き込まれます。
文珍氏の声はNHKで土曜の昼(たぶん)にやっていた相談番組でお馴染みでした。

(番組名を忘れましたが、高橋英樹大桃美代子、佐藤B作が一緒に出ていたはず)

氏は階段講義室の壇上に立ってスーツで講義をしたのかもしれませんが、
僕の脳内では着物で座布団に端座し、扇子片手に身振り手振りで喋っています。
そういえば落語は「想像力を要するメディア」としてうってつけなのでした。
前に集めた落語音源を聞き直そうかなと思いましたが、それはまた別の話です。


今日読んだ中で、心理テストの話が面白かったので紹介します。

 橋の架かった川を挟んで、M氏の住む家とL嬢の住む家がある。
 二人は好き合っていて、L嬢はいつも橋を渡ってM氏に会いに行く。
 ところがある日、大雨で川が増水し、橋が壊れてしまう。
 困ったL嬢は、小舟を所有するW氏に相談する。
 W氏は「忙しいから後にしてくれ」とL嬢の頼みを断る。
 諦め切れないL嬢は、同じく小舟を有するS氏に相談する。
 S氏は「一晩付き合ってくれたら渡してやるよ」と持ちかける。
 M氏に会いたいL嬢は、S氏と一夜を共にする。
 S氏の舟でL嬢は対岸に渡り、M氏の家にたどり着く。
 M氏は喜ぶが、なぜ来れたのか疑問に思い、L嬢に問う。
 L嬢が正直に答えるとM氏は怒り、二人は破局を迎える。
 悲しみに暮れるL嬢に、通りすがりのH氏がやさしく声をかける。
 「同情するよ。僕なら君を幸せにできる。一緒に暮らそう」
 L嬢とH氏は結ばれる。

 というお話の中に、五人の登場人物がいる。
 この五人を、好き(好ましい)と思う順番に並べよ。

表現は多少変わっていますが、大体こんな感じです。
さて、M氏、L嬢、W氏、S氏、H氏の各人をどう感じるでしょうか?


種明かしをすると、各人のイニシャルは性質の頭文字を表しています。
(イニシャルに意味が無かったら空で書けなかったと思います)

 M = Moral
 L = Love
 W = Work
 S = Sex
 H = Home

心理テストは、これらの性質を好ましいと思う順に並べたことになるわけです。

文珍氏は講義の中でこの話をして、学生にもアルファベットを並べてもらった。
文珍氏は「L ... S」で(途中は忘れた)、愛とセックスがかけ離れた結果だった。
これをして「愛のないセックスができるということですね」と解釈し、
「私と同じ人いません? 気が合うと思うんやけどなあ」と笑いをとっていた。

僕は「L H M W S」の順で、図らずも氏と似た解答になったのですが、
文珍氏とは違うことを考えていて、そしてなぜ違うのかを考えました。
たぶん僕は「今の自分の価値観」ではなく「理想の価値観」として選んだのです。
本ばっかり読んで「主夫もいいなあ」とか言ってる人間の結果としては妥当です。


氏はこの心理テストをベースに色んな社会状況を当てはめられると言う。
たとえば、川が太平洋、L嬢側の岸がアメリカ、M氏側の岸が日本と考えると…。
など、いくつか例が挙げられ面白いなと思い、僕はまた別のことを考えていました。
単純明快なテストだからこそ面白いのですが、実際はもっと複雑だぞ、と。

僕の結果でWが後ろに来ていて、種明かしの後にこれが不満だったのですが、
Wは残りの4つ(M、L、S、H)を全部含むと考えることもできます。
テスト内で他と隔てられたWとは、他とトレードオフになるWということで、
たとえば高度成長期のモーレツ社員的な仕事がWのモデルになってしまう。

まあ、Wをそういうものと考えれば、Sより下位でも構わないとは思いますが。
ちなみに本中で氏は何人かの学生に答を聞いて、みんなSが最下位でした。
これは当然で、心理テストの結果を他人と共有する前提で答えればそうなる。
というより、結果を書き出すこと自体が明示化なので、これはテストの限界ですね。

公的な解答と私的な解答を作って、比べてみるのも面白いかもしれません。