human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

「仕事をしている人」の一心さ(2011/9/24)

2011/09/24(土)16:21

店内
 Lブレンドコーヒー  ¥220



「仕事をしている人」の一心さ


『いいひと。(20)』で、ミキさんと料理人さんの
やりとりに奥様が発した一言
「無我夢中に仕事」というわけではなく、
着実に仕事をこなす中で個人の人間性が
自然ににじみでている。
「役割(仮面)」の意味をしっかり
分かっているのだと思う。

一時期、『いいひと。』(髙橋しん)を集中的に読んでいました。
集中といってもご案内の通り、毎週土曜にBookOffでちびちびと立ち読みのことです。
ただ、行きつ戻りつしながら、一年近く読み続けていた気がします。
それが最終巻の一つ前くらいで「終わるのが惜しい」と思ったか、ぱたりと止みました。

という経緯があって、メモの日付からしてそれは3年くらい前のことらしい。
その年月ゆえか、マンガの内容はばらばらの断片しか覚えていません。
このメモに書かれた場面は断片すら浮かんで来ず、内容について直接は言及しにくい。
なので字面で捉えての連想となります(まあ「Veloceメモ」シリーズは大体こんな感じですが)。


年末と関係があるのかないのか、『夜間飛行』(サン=テグジュペリ)を読み返しています。
この本は土曜の午後に一場面ずつ読むというまったりペースで今年の夏に読了しました。
堀口大學氏の訳ですが、英文の語順に忠実な翻訳らしく、流れる日本語ではありません。
また氏の詩人ゆえかもしれませんが一読で意味が取れない文も多く、ゆっくり読み進めました。

意味が取りにくい文があれば、そのまま読み飛ばすか、何度も読み返して考えるかを選択します。
そのどちらになるかは、当たり前ですがその文の「読み取れた意味」に因ることはありません。
飛行士が美しい情景の空を飛びながら、通信士の背を見つめながら、独り内省している。
その内省が空の美しさや己の孤独とリンクすると分れば、なんとか理解したいと思うことになる。

そうやって何度も読み返して、「そうか!」と分かったり、それでも分からなかったりします。
でも、分からなかった経験は、それを考えていた過程の自分の思考へ貼る「心の付箋」にもなる
その「心の付箋」はそのまま、分からなかった当該の部分に貼られる付箋へと形を成すこともある。
そんなこんなで、この本には小説としてはいつも以上に、沢山の付箋が貼られています。

その付箋箇所を読み返していて、そのうちの一つ(↓)から上のメモへと連想が繋がったのでした。

──あすの晩、君があの操縦士に危険な出発を命じなければならないような事態が起るやもしれない。そのとき、彼は君に服従する必要のある人間だ」
(…)
──そのとき、彼らがもし、友情のため君に服従するとしたら、君は彼らを裏切ることになる。君には、個人として他人を犠牲にする権利なんかまるでありはしないのだから
──もちろん、ありはしません」
──もしまた、彼らが、君の友情のおかげでいやな仕事からのがれることができると信じたりするようだと、同じく君は彼らを裏切ることになる。なぜかというに、彼らはどのみち服従しなければならないのだから。まあ、そこへ腰かけたまえ」
 リヴィエールは、自分の手で、静かにロビノーを自分のデスクの前へ押しやった。
(…)
──書きたまえよ、《監督ロビノーは、何々の理由により、操縦士ペルランに何々の懲罰を命ず……》と、理由は何でもかまわない、君が自分で見つけるんだ
──支配人さん!」
──いいから、僕の言う通りにしたまえ、ロビノー。部下の者を愛したまえ。ただそれと彼らに知らさずに愛したまえ
サン=テグジュペリ『夜間飛行』p.44-45(堀口大學訳、新潮文庫

これは人間性を問うてはいけない組織における、人間性が介在しない愛の一つの形です。

この愛が美しいのはきっと、それが「片思い」だからでしょう。