human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

「前兆」の保存とその変容

もっとも興味深い帰結のひとつは、十七世紀の信仰運動である。そこでは、救済の成就のための試みが私事化されたのであった。(…) [こんにち]すくなくとも、この信仰運動の二つの効果は心のうちに保たれているに相違ない。その第一は、自分自身の救済に必要な…

香辛寮の人々 2-10 存在と意味

「僕にも昔ね、気になる女の子がいたんだよ。小さいんだけど妙に落ち着いていた。女子には珍しく女子同士でグループを作らずにさ、男子たちのノリにたった一人で違和感なく混ざりながら、その表情には妙に惹きつけられる可愛さがあった。 ふつうの女子にはな…

出生率改善の劇薬、野党「ババ抜き」必敗則

『老いてゆく未来 GRAY DAWN』(ピーター・G・ピーターソン)を読了しました。2001年出版、原著は1999年でデータは当時のものですが、 少子高齢化問題について包括的な考察がなされています。 未来予測というより問題提起に力点があるので、 統計データが古…

「真実はいつも一つ」どころか無限に増殖しているとすれば

毎日新聞書評欄の、ちと古い2020.12.19号を読んでいて、「ん?」と思いました。 × × × 原発事故後に福島の支局で取材をしていた朝日新聞記者が書いたというルポルタージュ『白い土地』(三浦英之)の書評で、評者は国際政治学の岩間陽子という人。様々な理由…

「TRAVERSES/6」を読む (2) - 言葉は社会を動かせない

2021.1.16追記タイトルで言いたかったことが本文に尽くされないまま途絶しているので、最初に要点だけ。仮説ですが、六十年代後半からの世界的な若者の運動、それに呼応する現代思想の躍動がバネにしていたのは、「強い(鋭い)言葉は社会を動かすことができ…

Metaphorical Multiple Reflection

「共通する3つのモチーフ」 あらゆるものを見、体験する旅。 (内面と事物の創造的対応、象徴が現実を生むこと) 無関心でいられないこと、理解欲は生命力。 不可視にいたる門は可視であらねばならないこと。 「新たな問い」 旅の終わりは変化の兆し。 (そ…

世界が個人になってきた

この理論は、非蓋然的なコミュニケーションを三つの基本的諸問題の諸側面に関して蓋然的なコミュニケーションへと変換する際に必要とされる一連の媒介物を包みこむ一般概念を要請する。そのような媒介物を「メディア」と称することとしよう。 「第三章 コミ…

「TRAVERSES/6」を読む (1)

20世紀末のフランス思想誌(の翻訳)なるものを読了しました。 テーマは、冷戦とか、共産主義とか、ポストモダンとか、第三次世界大戦とか…世紀末の政治 (TRAVERSES)メディア: 単行本近現代の世界史(=本書を読む大前提の知識)に疎い人間が手を出す本ではな…

ドーマルとルーマン、〈山〉の掟とアナロジーの集中力

「おしまいには、とくに〈類推の山〉の掟のひとつを書きこんでみたいんだ。頂上にたどりつくためには、山小屋から山小屋へと登っていかなければならない。ところが山小屋をひとつはなれる前に、あとからやってきてそのはなれた場所に入る人たちを用意してお…

ドーマル、多和田葉子、橋本治と「メタファーの力」

ルネ・ドーマル『類推の山』を、その本編を読み終えました。未完の遺稿というのが惜しいです。 何も知らずに、それからまだまだ続くはずの「……」で章が終えられた次の白紙のページに出会って、呆然となりました。 そして、 ただ、それはもう、そういうものな…

ゆくとしくるとし '20→'21 3 「図書館をつくろう」

正月は毎年テレビばかり見ていて、目が痛いです。 ただ普段全く見ないので発見はいろいろあります。NHKの「100分de名著」だったか、 萩尾望都の特集を見ました。 『銀の三角』と『11人いる!』は何度も読んでいて、 でも『ポーの一族』はちらりと読んでよく…

ゆくとしくるとし '20→'21 2

今年ははちまんさんへ登ってきました。去年は面倒くさがって行かなかった気がするんですが、 それまで毎年行っていた元日の初詣を再開したという感じです。年の変わり目に間に合わせる気もなく、 新年10分前に家を出たので道中で新年を迎えました。 近くの…

ゆくとしくるとし '20→'21 1

一年を振り返るというとき、 今年は社会的にはコロナ問題で埋め尽くされていましたが、 僕自身はその影響を直接受けたというよりは、 そのニュースに触れて考えさせられることがとても多かった。 だから、書くならそういう話になる。というより、今年書いて…

「権力を取らずに世界を変える」個人編

下記引用の太字と傍線の意味は、文脈上の種類の違いです。 何十年もまえから、科学的研究は、もはや疑いのない正説という指針のもとに行われることはなくなった──とりわけ、認識理論および科学理論においてそうであった。一般に受け入れられた方策は、「プラ…

ポスト・トゥルースの意味

ルーマンの文章はことさら、その文章だけ読んで何を言っているかがさっぱり分からない。 だからその文章に補助線をいくつもいくつも、たくさん足すことになる。 すると当然その理解は自分(の文脈)だけのものになるが、同時にもう一つ気付く。 補助線を描き…

重力距離の縮尺

「ピー、フィー」 女は窓辺に駆け寄って、身をねじって探した。鷹の姿はどこにも認められなかった。しかし窓の外には思いがけない光景がくり広げられていた。向いの箱形のビルは黒々とそそりたつ岸壁に変わっていた。その隣りの白タイルの建物は山腹に横たう…

こころのこどもとともに

彼女はガールが運んできたミルクを飲もうと、つぼを傾けた。そのとき思いもかけず、つぼから流れでた液体が、紫の細長い滝のように見えてはっとした。それはすぐに影の悪戯、つぼの真上に干してあったスカーフの色が映っているのだとわかったが、つぼの注ぎ…

システムの主観、遺伝子の語り

なにかが述べられなければならない。つまり、他者が存在すれば、すくなくとも善良で平和的な(あるいは邪悪で攻撃的な)意図が示されなければならないのである。 「第一章 社会システムのオートポイエーシス」p.14 ニクラス・ルーマン『自己言及性について』…

Can one speak about unspeakable? (6)

沈黙を思う。 ひとりの沈黙。 共同的な沈黙。ひとが誰かといる時、 その場に一緒にいることがコミュニケーションとなる。 何かを伝えあい、なにかが通じあう。 意図から外れて、意図をすり抜けて。 沈黙は二人のかたわらにつねにある。雄弁の沈黙、無口の沈…

『生活世界の構造』読了

『生活世界の構造』(アルフレッド・シュッツ、トーマス・ルックマン)を本日読了しました。長かった。 一年くらいかかったでしょうか。監訳者あとがきを読んで、巻末の事項索引にまで線を引いて、そしてその流れで最初のページから(自分が線を引いた所だけ…

司書ブログ更新

一年ぶりですが、個人事業HPのブログを更新したのでリンクしておきます。選書したセットが自分の仕事の価値観に関わるものだったので、 これを機会にと考えてみました。この089は相当に内容の濃い鎖書なので、引き出せるものはもっとあるはずです。もとい、…

デジタル平安時代の崩壊とその先

日本の歴史を見ていると、外国でもそうかも知れないが、何か外来の事変に出くわすと、内に蔵せられて今まで気のつかなかったものが、忽然首を動かして事物の表面に揺ぎ出て来るのである。何か刺戟をもたぬと心の働きの鈍るのは、個人生活の場合は固よりそう…

「不気味の山」とリアリティの解像度

電子の仮想空間が誕生する以前から、人間は夢を見ていた。夢と現実を取り違えないでいられたのは、夢が現実に比べて圧倒的にデータ量が少なかったからだ。多くのメモリィを必要としない、解像度の低いものだった。合理的な秩序も、緻密なディテールも、そし…

先天性ニヒリズムの克服法

スニーカー刑事は立ち回る。 事件は人心の闇への招待状。 参加は強制の呪われた祝宴。 死の足跡をたどる即席の詩。 生の所業は諸行無常への道。 手応えはたしかに存在する。 闇を照らせば有象が浮かぶ。 光は見えぬ無象を消し去る。 後先はなくただ存在があ…

対話と株式会社性、誠実な近視眼と形式に対する食傷

党派性を超えて政治を語ること。 政治とは利害調整のことだが、党派が対立するのは、 こちらとあちらの利害が異なるからである。互いに利益となる政策なら反対意見は出ないし、 互いに損害を生む事業は誰もやろうとは言わない。 一方の利益が他方の損害を招…

ハイエクを読んで:被害者先取、他律主義、そして自暴自棄

まさしく、ほとんどすべての人が望んでいるからこそ、われわれは社会主義への道を進んでいるのである。その歩みを不可避なものとするような明白な現実があるのでは決してない。「計画は不可避である」と主張されている問題に関しては、あとでぜひとも論じな…

日常生活の抽象とその豊穣

『生活世界の構造』(アルフレッド・シュッツ)を読んでいます。 隔日数ページずつで、現在500ページ少しまで進んだので、たぶん半年近く読み続けています。生活世界の構造 (ちくま学芸文庫)作者:シュッツ,アルフレッド,ルックマン,トーマス発売日: 2015/11/…

香辛寮の人々 2-9 Can one speak about unspeakable? (5)

フェンネルは向かいの椅子に向かって話しかける。 「すべての言葉は沈黙に通ずる」 テーブルには彼以外だれも座っていない。 「言葉というか、会話だけども。二人で延々と続けていれば、いずれお互いに言うことがなくなる」 もちろん空間は返事をしない。 「…

小川洋子とイチローと「善意解釈の原理」

自由市場におけるある種のウソは、人々に犯人をまるで透明人間のように扱わせる。問題はウソそのものにあるわけではない。システムに最低限の信頼が必要なのだ。古代の環境では、ウソの中傷を広めた者は生き残れなかった。 善意解釈の原理は、相手の発言をあ…

<AR-F05> たとえばそれは杉田水脈氏を「生む機械」

人が他人のために生きるのは、彼への関心がそこに伴うから。 どんな無意味な作業にも意味が見いだせるのも、そのためだ。 けれど、社会共生システムの高度化が「無関心」に仕事を割り当てると話は変わる。 無関心の強制が、人に意味の境界を既成とみなし、無…