human in book bouquet

読書を通じて「身体へ向かう思考」を展開していきます。

 -サン=テグジュペリ

GRAVITY LOVERS(前)

ちょっとしたきっかけがあって、 テグジュペリの『人間の土地』を五年ぶりに読み返していて、 童話でも小説でもなく、おそらく体験記だと思うのですが、 つまりジャンル的にはドキュメンタリーと言えなくもないはずですが、 そうだとすれば、この本の哲学と…

時鐘(寺鐘)の音

ぼくは一度、母の臨終の床に侍した三人の農夫を身近に見たことがあった。もとよりそれは痛々しくはあった。二度目の臍の緒が断ち切られるわけだった。(…)ただぼくは、同時にこういう事実も発見した。この訣別によって生命もまた二度目に与えられるのだと。…

テグジュペリ-吉本-村上ライン

ぼくは、自分の車室へ戻ってきた。ぼくは、ひとり言をもらした。彼らは、すこしも自分たちの運命に悩んでいはしない。いまもぼくを悩ますのは、慈悲心ではない。永久にたえず破れつづける傷口のために悲しもうというのではない。その傷口をもつ者は感じない…

「羊男」は羊かい? それとも羊飼い?

なぜ憎みあうのか? ぼくらは同じ地球によって運ばれる連帯責任者だ、同じ船の乗組員だ。新しい総合を生み出すために、各種の文化が対立することはいいことかもしれないが、これがおたがいに憎みあうにいたっては言語道断だ。 ぼくらを解放するには、おたが…

一(個)と全体(組織)について<併読リンク>

僕は学校を出て以来どこの組織にも属することなく一人でこつこつと生きて来たわけだけれど、その二十年ちょっとのあいだに身をもって学んだ事実がひとつだけある。それは「個人と組織が喧嘩をしたら、まず間違いなく組織のほうが勝つ」ということだ。(…)た…

「未来を予告するかすかな物音」について

サハラの辺り一面の砂漠にぽつんと立つ、哨所(郵便機の発着を成立させる最低限の施設)にて。 ところが今度は、緑いろの蝶が一羽飛ぶ。蜉蝣が二羽、ぼくのランプに突き当る。するとまたしても、ぼくは曖昧な気持に襲われる。それは喜びかもしれない。あるい…

「底なしの感覚」のこと

どうやら人々は僕らのために、そこにある無蓋の用水溜を危険視しているらしかった、その底の泥に溺れて死んだ少年のことを思い出して。扉の後ろには、僕らのいわゆる千年も前から動かない水が眠っていた。溜り水の話を聞くと僕らはいつもその水を思い出した…

「変化を映す鏡」について

彼女は一種不思議なさびしさを感じた。それは財産を惜しむ心でもなく、また財産が与えるものを惜しむ心でもなかった。理由は、彼女が、これまでの生活にあって、ジャックほども、無駄な剰余というものは知らずに暮してきたのだから。ただ彼女は今、自分の新…

「渦中の陸」のこと

「案ずるより産むが易し」といいます。 「案ずるより有無を言わせず」(@『あ・じゃ・ぱん』)ではありません。 「あんず酒飲む横山やすし」でもありません(かなり無理あり)。 その後の展開としては「産めばみな子」でしょうか(もはや当たり前)。 案ず…

融通無碍について

僕らは、あなたを驚かそうと思った。そして僕らはあなたを弱い女よと呼んだ。 「弱い女よ、僕らは、征服者になるのだよ」 (…) 「そうなったら、僕らはあなたの恋人だ。奴隷よ、僕らのために詩を読め……」 しかしあなたはもう読んでくれなかった。あなたは本…

身近な喪失と諸行無常について

あるとき、ある若い母親が、リヴィエールに告白したことがあった、「子供が死んだという事実は、あたしにはまだはっきり理解できません。辛いのはかえって、些細な事柄です。子供の着物が目についたり、夜半の目ざめに、心の中に湧き上がるあの愛情、この乳…

沈黙について

ある音楽の一節が彼の唇にのぼった。それは、彼が友人といっしょに聞いたあるソナタの一節だった。友人たちには音楽の意味がわからなかったので、「この芸術は、君にも僕にもただ退屈なのだが、ただ君はそれを白状しないだけなんだ」と言った。 「そうかもし…

「仕事をしている人」の一心さ(2011/9/24)

2011/09/24(土)16:21店内 Lブレンドコーヒー ¥220 「仕事をしている人」の一心さ 『いいひと。(20)』で、ミキさんと料理人さんの やりとりに奥様が発した一言 「無我夢中に仕事」というわけではなく、 着実に仕事をこなす中で個人の人間性が 自然ににじみ…